第4部の注釈・言い訳・重箱の隅つつき


1.第9艦隊か第10艦隊か
 第三次ティアマト会戦において、ウランフ提督の艦隊は、小説版外伝第1巻「星を砕く者」第1章では第9艦隊となっています。 一方、OVA版の 「第三次ティアマト会戦」 では、第10艦隊と明言されています。これははたしてどっちなのでしょう?
 翌年のアムリッツァ会戦ではウランフ艦隊は第10艦隊となっているので、第10の方が正解のように思われます。
 むろん提督と艦隊番号は常に連動するものとは限りませんが(パエッタが第2艦隊から第1艦隊に移ったように)、 恐らく小説版での 「第9艦隊」 はちょっとしたケアレスミスのようなものではないか、という気がします。
 OVAの外伝は 「第三次ティアマト会戦」 が最後となっています。この会戦は小説版ではささやかなエピソード的扱いなので、OVAのこの構成にはちょっと驚いたのですが、ご覧になった方はご存知のように、OVAでは銀英伝全体を締めくくる感動的なエンディングとなっています。
 すなわち、銀英伝の映像版は映画「わが征くは星の大海」から始まりましたが、「第三次ティアマト会戦」はそこへとつながっていくプロローグ的な扱いとなっているのです。 正に、「そして、壮大なる叙事詩の幕が上がる」(OVA銀英伝外伝「第三次ティアマト会戦」次回予告)という言葉そのままに。
 「第三次ティアマト会戦」(後編) のエンディング、すなわち銀英伝映像版のエンディングのナレーションを、ちょっと長くなりますが引用してみます。BGMはマーラーの交響曲第3番第1楽章でどうぞ(笑)

(第三次ティアマト会戦から)わずか四ヵ月後、イゼルローン方面への再出兵が行われ、この年のはじめと同じティアマト星域で、通算四度目となる大規模な会戦が行われることとなるのだ。
 そしてそこで、ラインハルトは生涯最大の好敵手となるヤン・ウェンリーと、初めて互いを知ることとなる。 それは壮大な叙事詩の幕開けであり、銀河の歴史の巨大な歯車が、一つ大きく動き出す瞬間でもある。
 だが、今のラインハルトにそれを知る由もない。 今は野心の階段を友と二人、上だけを見て駆け上がっていくのみだった。 ある意味で、それは幸福な瞬間であったかもしれない。 そして二人は、この幸福な瞬間が永遠に続くものと信じていたのだった」


 このOVA版の感動的なエンディングに敬意を表し、拙作ではOVA版での「第10艦隊」を採用しました。


2.第2陣の編成
 第三次ティアマト会戦において、国防委員会の予算措置で待機させられた第2陣が第4、第6艦隊であるというのは小説版では記されていませんが、OVAでこのように述べられています。 ただし、最初は第8艦隊の予定だったんだけど第6艦隊に変更されたというのは筆者の創作です。 なにしろアップルトンにはもっと活躍してほしかったと思ってるもので、名前だけでも登場してもらいました。
 パエッタやムーアはともかく、アップルトン、ボロディン、アル・サレムなど、ほんとに出番のなかった同盟艦隊諸提督にも栄光を!


3.《ヘクトル》 と 《レオニダスU》
 第2章で登場する、第三次ティアマト会戦当時の第11艦隊旗艦が 《ヘクトル》 であるという点と、それから後に第11艦隊旗艦となる 《レオニダスU》 が最後のアキレウス級である、というのはいずれも私の創作ではなくて、「DATABOOK」に紹介されています。
 それにしても、こうして振り返ると第11艦隊の旗艦って二代にわたって不運でしたねえ……。


4.エドワーズ委員会出席拒否問題(笑)
 第7章掲載当時に掲示板にも書きましたが、これは言うまでもなく2002年1月のアフガン支援会議におけるNGO出席拒否問題を皮肉ったものです。 ただ単に皮肉って当てはめただけで、別に誰かがホワン・ルイみたいに立派だとか、誰かがトリューニヒト議長みたいに人気取りだけのパフォーマンス屋だと言いたい訳では、決してありません。 いや、マジで。 今の日本には、ホワン・ルイほど立派な政治家やトリューニヒトほどちゃらんぽらんな政治屋はそうそういませんよね、多分。 ネグロポンティやアイランズクラスなら沢山いそうだけど。 (う〜ん、でもその後明らかになった 「疑惑の総合商社」 はフィクションでないだけに上回るかなあ……。それにさあ、「サッカー観に行きたいな〜」「それだけはやめて下さい」なんてやりとり、何か情けなくないかい? 前首相の末期とだぶるんだけど……)
 ところで、最近の政治劇を見てると思わずホワン・ルイのこのセリフを思い出しますね。

「政治家とはそれほど偉いものかね? 私たちは社会の生産に何ら寄与しているわけではない。市民が納める税金を公平に、かつ効率よく分配するという任務を託されて、それに従事しているだけの存在だよ。(中略)それが偉そうに見えるのは、宣伝の結果としての錯覚にすぎんよ

 ちなみにエドワーズ委員会とその公開質問状は、まったく原作のとおりです。


5.ホワン・ルイとジョアン・レベロはいつ辞めた?
 ホワン・ルイは宇宙暦796年のアムリッツァ会戦当時に最高評議会人的資源委員長を務め、798年のヤンに対する査問会でも、肩書きは分からないものの参加してヤンに味方しています。 これ以後のどこかで野に下っているはずですが、原作では具体的にいつかははっきりしません。 というわけで、拙作第7章の 「エドワーズ委員会出席拒否問題」 に絡んで辞めたというのはまったくの創作です。
 「エンサイクロペディア」 によると、ホワンは宇宙暦799年5月 「政界を退き、野に下る」 となっています。これは同盟が帝国に破れ、ジョアン・レベロが元首代行となる時です。 確かにOVAでもこの後廃人となっていくレベロの元から去っていくシーンがあって、何となくそんなイメージもします。 この時が 「野に下った時」 ともとれそうです。
 しかし。小説版第4巻の第5章冒頭には 「在野の政治家ふたり − ジョアン・レベロとホワン・ルイが、あるレストランで夕食をともにしていた」とありますので、この時点ですでに二人とも最高評議会を離れていたのは間違いないでしょう。 OVAでもラグナロック作戦発動後は右往左往する最高評議会がちょくちょく出てきますが、ここに二人らしい人物はいないし (代わりにどこか別室で二人揃っているシーンがよくありましたね)。
 ただし、ものによってはどうも 「野に下る」 ことと 「政界を退く」 ことが少々混同されているきらいがあるようです。 現代日本でも離党したけど議員辞職はしない人とか、逮捕されても居座りつづけたりとか、ややこしいですからねぇ……。


6.チュン・ウー・チェンの階級は?
 拙作第10章では冒頭でチュン総参謀長がホリタに通信してきますが、実際にはたぶん総参謀長が直接伝達するということはないでしょうね。 ただ私的に好きなキャラであるという点と、拙作中ではチュンとホリタは会ったことがあるので、知り合いだから直に通信してみた、という設定でこうしました。
 しかし、ここでちょっと引っかかったのが、チュン参謀長の階級。
「エンサイクロペディア」 によると、士官学校教授の時点ですでに中将。 ところがOVAを見ていると、急遽チュンが参謀長代行として会議に呼ばれ、サンドイッチをかじってカールセン中将を呆れさせるシーンでは、テロップもセリフも少将となっています。 ビュコックさんでさえ 「チュン少将が加わったところだが……」 て言ってるもん。
 う〜ん、少将ならホリタと同格で、中将ならホリタより上官。 はっきりしないと書きにくいなあ。
 小説版第5巻では、不思議なことにこの辺りのシーンでは階級が明記されていません。
 それからしばらく後、2月4日進発直前にビュコック長官と一緒に昇進して初めて 「大将」 という階級が明記されます。 この時 「いや、単なる自暴自棄でしょう」 (OVAでは「いやぁ、単なるヤケでしょう」。 なんかこっちの方がさらりとより辛辣な感じですネ) という 「名言」 が残されるわけですね(笑)
 さてもう少しよく見ると、小説では 「副参謀長チュン・ウー・チェンが昇格を命じられて会議室に駆けつけた」 とあります。さらに、その前の参謀長はオスマン中将。
 「副」参謀長は一つ下の少将であった可能性が高いと思われます。 そして、参謀長への昇格とともに中将となったのではないでしょうか。 もっとも急遽会議室に呼ばれた時点ではまだ正式の辞令は出ていないので、OVAでは 「少将」 となっていた。 拙作はこの会議の後ということで、正式な辞令を受けていたチュン氏は中将となっていた。 で、その後さらに大将に昇進ということで、 「自暴自棄」 と言わしむるに至った……。
 「エンサイクロペディア」 の教授時代すでに中将だったという記述にさえ目をつぶれば、これで小説、OVAいずれともつじつまが合うのではないかと思うのですが……。


「メムノーン伝」第4部あとがき