銀英伝の戦艦たちと「神々の黄昏」

 「神々の黄昏」(ラグナロック)とは、銀英伝ではもちろんフェザーン回廊を通過して同盟領に進攻する大作戦に、ラインハルトが付けた作戦名です。
 この言葉はもともと、ゲルマン神話でこの世の終わりに神の軍勢と魔軍が繰り広げる最終戦争のことです。聖書でいう「ハルマゲドン」とほとんど同じモチーフですね。

 銀河英雄伝説には、様々な神話にちなんで命名された固有名詞がたくさんあります。
 自分でも固有名詞には悩むので、その参考に買っておいた神話の解説本をめくっていると、銀英伝に登場した戦艦の名前がいくつも眼に飛び込んできました。

 SFでは、海の船そのものみたいな非現実的な形から、ただの球形みたいな味気ない形まで、様々な宇宙船が登場します。そんな中でも、私は銀英伝の艦がいちばん好きなんです。特に自由惑星同盟の旗艦クラスが。
 非現実的でもなく、味気なくもない。ほどよくメカニックで、それなりに合理的なスタイル。いかにも「戦艦!」といった感じの武骨さ。帝国側の艦船はあまり大きさを感じないのに対し、全長1キロもあるそのサイズを実感できる迫力。

 もちろんご存じのように、銀英伝の艦艇も、多くが神話にちなんで命名されています。しかも、意図的に偏らせた帝国側は別にして、同盟側の艦名はいろいろな神話が散りばめられています。
 本稿では、自由惑星同盟の艦艇の、名前の由来に注目してみたいと思います。


 旗艦クラス

アイアース(Aias)
宇宙艦 ラザール・ロボス元帥の乗艦。
由来 トロイア戦争(古代ギリシア伝説に語られる、トロイアとギリシャの戦争。シュリーマンらによって、実際に戦争があったことが確認された)における、アキレウスにつぐ位の武将。アキレウスの従弟。
ひとこと ただしアイアースは「巨大な体躯を持った勇敢な武将であったが、知性にやや欠けていた」そうな。……そういえばアムリッツァの頃のロボス元帥って ……。
パトロクロス(Patroclus)
宇宙艦 第2艦隊(パエッタ提督)旗艦。全長1159メートル。
由来 トロイア戦争に登場する、ギリシア側の武将。アキレウスとは親友。
ひとこと ヤンが乗艦していたこともあって、このクラスでは登場回数が多い艦の一つですね。
ク・ホリン(Ku Horin)
宇宙艦 第3艦隊(ルフェーブル提督)旗艦。惑星レージング付近で、被弾した僚艦と小惑星との間に挟まれて沈む。艦籍番号、0301。
由来 ケルト神話に登場する半神半人の英雄。「ク」は猛犬で、古代アイルランドでは猛犬は勇気・美の象徴だった。
ひとこと 砲撃以外でやられた唯一の旗艦かも知れません。
レオニダス(Leonidas)
宇宙艦 第4艦隊(パストーレ提督)旗艦。アスターテ会戦で撃沈される。
由来 第2次ペルシア戦争(紀元前490年)当時の都市国家スパルタの名将。また、アレクサンダー大王の傅育者だった人物もこの名前。
ひとこと レオニダスUは第11艦隊(ルグランジュ提督)旗艦。
リオ・グランデ(Rio Grande)
宇宙艦 第5艦隊(ビュコック提督)旗艦、自由惑星同盟軍最後の総旗艦。艦籍番号、0501。
由来 米国とメキシコの間を流れる川。メキシコでは、リオ・ブラボー・デル・ノルテ川と呼ぶ。また、ブラジル南部の大西洋に面した港湾都市もこの名。
ひとこと 同盟軍を象徴する艦ですね。唯一の地名を冠した旗艦ですが、他の由来があるのでしょうか?
ペルガモン(Pergamonn)
宇宙艦 第6艦隊(ムーア提督)旗艦。アスターテ会戦で撃沈される。
由来 小アジアにあった古代王国の名。紀元前3世紀〜2世紀頃に繁栄。
ひとこと アムリッツァで散った諸提督が惜しまれるのに比べて、アスターテの方は何だかなあ…。
ケツアルコアトル(Quetzalcoatl)
宇宙艦 第7艦隊(ホーウッド提督)旗艦。ドヴェルク星域でキルヒアイス艦隊に降伏(小説では敗走)。
由来 古代南米、トルテカやアステカの支配神。「羽毛ある蛇」の意味。
ひとこと ケツアルコアトルは割と有名な神様ですが、この艦も登場場面がなく残念です。
クリシュナ(Kulishuna;Krishna)
宇宙艦 第8艦隊(アップルトン提督)旗艦。被弾し、恒星アムリッツァへと消える。艦籍番号、0801。
由来 古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」に登場する英雄で、実在の人物とも。ヒンズー教に組み入れられてからは、主神ヴィシュヌの変化した姿の一つとされる。
ひとこと アップルトン提督はなぜ退艦しなかったのでしょう? 艦は失っても、生き延びてほしかったです。
パラミデュース(Palamedes)
宇宙艦 第9艦隊(アル・サレム提督)旗艦。
由来 パラメデス。トロイア戦争時、ギリシア側の将軍。嫌がるユリシーズをトロイア戦争に参加させることに成功したが、そのことで恨まれて謀殺された。
ひとこと アムリッツァ後の消息不明。この後のどれかの会戦に参加していたのでしょうか。
盤古(Bang-goo)
宇宙艦 第10艦隊(ウランフ提督)旗艦。惑星リューゲン上空で僚軍を脱出させるも、力尽きる。艦籍番号、1001。
由来 古代中国の天地創世神話に登場する巨人。初めは天と地の区別がなかったが、盤古の成長につれて天と地が分かれていった。
ひとこと ウランフ提督のファンとしては、もっともっと活躍してほしかったです。
ペルーン(Perun)
宇宙艦 第12艦隊(ボロディン提督)旗艦。ボルソルン星系で激戦の末、降伏。
由来 東スラブでキリスト教改宗前に信仰されていた。樫を神木とする雷神で、主神格であった。
ひとこと 出番が少なすぎて、書くことが…。せめて外伝で活躍して欲しかったのですが。
ヒューペリオン(Hyperion)
宇宙艦 ご存じ、第13艦隊(ヤン提督)旗艦。シヴァ星域の会戦で、メルカッツと共に最期を迎える。艦籍番号、144M。
由来 ギリシア神話における、巨人族ティタンの一人。太陽と月と曙光の神。
ひとこと 他の旗艦に比べて、スタイルと色が独特ですね(艦籍番号もなぜか他の旗艦と違いますな)。ちなみに、土星の衛星にもこの名が付けられています。
アキレウス(Achilleus)
宇宙艦 第14艦隊(モートン提督)旗艦。バーミリオン会戦で奮戦するも、ミュラー艦隊に撃沈される。
由来 トロイア戦争でもっとも有名な英雄の一人。「アキレス腱」の由来。
ひとこと ランテマリオやバーミリオンでの奮戦はカッコ良かったですね。
ディオメデス(Diomedes)
宇宙艦 第15艦隊(カールセン提督)旗艦。マル・アデッタ会戦で善戦するも、撃沈される。
由来 トロイア戦争で、アキレウスに次ぐ勇将。
ひとこと カールセンもビュコック、ウランフに次いでカッコよかったですね。それにふさわしい艦、と言えるでしょう。ところでOVAのマル・アデッタ会戦では「第14艦隊」になってるのですよ……。



 旗艦以外

ネストル(Nestor)
宇宙艦 第4艦隊所属の戦艦。乗員660名。アスターテ会戦で撃沈される。
由来 トロイア戦争に登場する、ギリシア軍の老将。
ひとこと ネストル将軍は物事に通じた智将だったそうで、第4艦隊でのあっけない最期は、あまりに可哀想です。
トリグラフ(Triglav)
宇宙艦 アッテンボロー分艦隊旗艦。
由来 西スラブ(特にバルト地方)で信仰されていた軍神。「Tri」という接頭語が示すように「三つの頭」を意味し、その偶像は実際に三つの頭を持っていた。
ひとこと トリグラフの艦形は確かに三つの艦首がありましたよね。当時の最新鋭艦で、ムライ参謀長いわく「旗艦にふさわしい風格を持っている」。
アムルタート(Amltat)
宇宙艦 アッテンボロー分艦隊所属の空母。ユリアン初陣の際の母艦。宇宙暦798年1月、イゼルローン回廊帝国側での遭遇戦で沈んだ。
由来 ゾロアスター教の7人の大天使、アムシャ・スプンタの一人。「不死」を意味し、植物の女神でもある。
ひとこと 艦名が登場する唯一の空母です。結構好きな艦種なのですが、活躍の場が少なく残念。
アガートラム(Agateram;Airgedlamh )
宇宙艦 フィッシャー分艦隊旗艦。
由来 ケルト神話に登場するダーナ神族の王。戦いの神として、ローマ神話のマルスやユピテルと同一視されることもある。
ひとこと バーミリオン以後登場しないということは、やはりバーラトの和約で破棄されたのでしょうか。
ユリシーズ(Ulysess)
宇宙艦 レグニツァ遭遇戦当時、第2艦隊所属。アムリッツァ会戦当時は第8艦隊所属。この時「トイレを壊された戦艦」との逸話。ヤン艦隊配属から革命軍旗艦となるまで、最後まで生き延びた強運の戦艦。その強運ゆえ、「方舟作戦」では600組の母子が乗り込む。艦長、ニルソン中佐。艦籍番号、913-D。
由来 ギリシアの英雄オデュッセウスの英語読み。トロイア戦争に参加したり、叙事詩「オデュッセイア」の主人公。
ひとこと ユリシーズはトロイの木馬に代表される計略に長けた人物で、その点ではヤン艦隊にふさわしいかも知れません。ただ、よく読むと結構えげつない策略も使ったようです。
ベレノス(Belenus)
宇宙艦 サーニアル分艦隊旗艦。宇宙暦799年のランテマリオ会戦に参加。
由来 ケルト神話における太陽神。
ひとこと ヤン艦隊以外の同盟軍では分艦隊がほとんど登場しませんでしたが、描かれなかった活躍がたくさんあったのでしょうね。
ロスタム(Rustam)
宇宙艦 マリネッティ分艦隊旗艦。宇宙暦799年のランテマリオ会戦に参加。
由来 ペルシア神話「シャー・ナーメ」の中心的英雄。700年以上生きたそうな。
ひとこと OVAで一瞬だけ登場した姿を見ると、どうもパトロクロスなどと同じアキレウス級のようです。
シヴァ(Shiva)
宇宙艦 バーミリオン会戦以後、メルカッツやフィッシャーが活躍した戦艦。
由来 ヒンドゥー教の主神の一人で、宇宙の破壊と再生をつかさどる。
ひとこと 名前の派手さに比べ、手堅く地道に活躍した艦、という感じです。やはり指揮官の人徳でしょうか。
マルドゥク(Marduk)
宇宙艦 サンドル・アラルコン少将の旗艦。宇宙暦798年、敵を不用意に深追いして、あっけなくやられる。
由来 古代オリエントのアッカド語神話「エヌマ・エリシュ」に登場する、バビロニアの主神。なお、この神話でマルドゥクに対抗する竜がティアマト。
ひとこと ああ、可哀想。間抜けな指揮官に率いられた艦と乗員が。
マウリア(Mauria;Maurya?)
宇宙艦 グエン・バン・ヒュー分艦隊旗艦。マルドゥクと一緒にやられる。
由来 マウリア(Maurya)は、インド史上最初の統一国家の王朝名。でもスペルが異なるので、違うかも知れない。
ひとこと 虎柄に塗装された派手な戦艦。現実のところ、宇宙ではこうした色はどのくらい見えるんでしょう?
レダU(LedaU)
宇宙艦 ヤンが査問会に呼ばれたとき、また宇宙暦799年7月ハイネセン脱出の際に乗った巡航艦。艦長ゼノ中佐。また、ヤン最期の艦ともなった(艦長、ルイシコフ中佐)。
由来 ギリシア神話で、白鳥に化身したゼウスとの間に、カストルとポリュデウケス(双子座で有名)をうむ王妃。
ひとこと 他の艦に比べて、やや白っぽい色に塗装されています。名前にふさわしい色、でしょうか?
コルドバ(Cordoba)
宇宙艦 イゼルローン艦隊所属の巡航艦。ワープしてきたガイエスブルグ要塞を発見した一隻。
由来 アルゼンチンの山脈、州および街の名。スペインにも同名の街がある。
ひとこと OVA版ではユリシーズに役どころを取られてました。
ナルビク(Narvik)
宇宙艦 バーミリオン会戦で旗艦ヒューペリオンのそばを固めていた巡航艦。初戦で撃沈される。
由来 ノルウェー北部の港湾都市。
ひとこと 実はこの名前、田中芳樹氏の短編 「深紅の寒流」 にも登場します。
タナトスV(ThanatosV)
宇宙艦 宇宙暦798年9月、フェザーンに赴任するユリアン、正統政府に赴くメルカッツらが搭乗した巡航艦。艦籍番号、359Z。
由来 ギリシア神話における、死をつかさどる神。あまり縁起のいい名じゃないなあ…。
ひとこと 同盟領内にはタナトス星系も存在する。「Th」をタ行に発音するのは、どっちかというと帝国公用語だと思うんだけど…。
カサンドラ
宇宙艦 バーミリオン会戦終結時、メルカッツ提督の指揮で姿を消した戦艦の一隻。
由来 トロイア戦争時、トロイア王の娘。アポロンの怒りにより、預言の能力はあっても、誰にも信じられなくなってしまう悲劇の王女。
ひとこと おそらく小説のみに、一ヶ所だけ登場。
エリダヌス
宇宙艦 イゼルローン革命軍所属の戦艦。シヴァ星域の会戦で、ビッテンフェルトの猛攻により撃沈。
由来 ギリシア神話で、太陽神アポロンの息子パエトンが日輪の馬車を暴走させ、ゼウスによってエリダヌス川に落とされた。星座のエリダヌス座でも有名。
ひとこと 「戦艦エリダヌス撃沈!」というセリフでのみ登場。もう一隻「バーデンガイトス」らしき艦名も登場しますが、よく聞き取れませんでした。
ザグレウス(Zagreus)
宇宙艦 イゼルローン革命軍所属の巡航艦。宇宙暦801年4月、ハイネセンへ向かおうとした革命政府代表に同行。ハイネセン行きを中止して引き返す時、この艦が故障して遅れた。
由来 クレタ島で信じられていた神で、一般的にはディオニュソスと同一視された。 ゼウスが自分の後継者にしようとペルセポネに生ませた子供。
ひとこと OVAだけでも艦名が登場するなんてこの幸せ者ー!(笑)
グランド・カナル
宇宙艦 宇宙暦795年、民間輸送船の護衛を最後まで務めた唯一の巡航艦。艦長フェーガン少佐。民間船を脱出させることに成功するも、帝国巡航艦2隻に撃破され、全員戦死。「グランド・カナル事件」と呼ばれる。
由来 「大運河」。イタリア・ヴェネチアの水路や、中国の隋の時代に建設された大運河の英語名もこの名。
ひとこと 全戦死者に「自由戦士勲章」が贈られたが、その授与式典で、一人の准将がインタビューにこう答えた。 「グランド・カナルには、100個の勲章よりたった1隻の僚艦が必要だったと思いますよ」  その准将こそ、だれあろうヤン・ウェンリーであった。
エルムV(ElmV)
宇宙艦 宇宙暦794年、第6次イゼルローン攻撃作戦時、アッテンボローがはじめて艦長となった駆逐艦。
由来 エルムは普通名詞としては「楡(ニレ)の木」。
ひとこと 艦長とは、アッテンボローもあなどれませんね。確か、第二次大戦中の日本に、楡という駆逐艦がありませんでしたっけ。
シャー・アッバス
宇宙艦 宇宙暦745年、第2次ティアマト会戦に参加した戦艦。
由来 アッバス1世(1571〜1629)は、現在のイランあたりにあったサファヴィー王朝最盛期の王(在1587〜1629)。
ひとこと この艦には、当時19歳のアレクサンドル・ビュコックが砲術下士官として乗り組んでいました。
ヤノーシュ
宇宙艦 宇宙暦640年、同盟軍と帝国軍が初めて遭遇したダゴン星域会戦で、最初に帝国軍を発見した駆逐艦。
由来 ハンガリーの民話に登場する英雄(あるいはほら吹き)ハーリ・ヤノーシュより? ハンガリーの国民的大作曲家コダーイによりオペラ 「ハーリ・ヤノーシュ」 が作曲されており、またブダペストのドナウ河畔にはヤノーシュ山もある。
ひとこと あるいは西暦2360年、超光速航行を実現した宇宙省技術陣の長、アントネル・ヤノーシュ博士にちなむかも知れません。現代の感覚では科学者の名と軍艦はあまり結びつきませんが、もしかしたらヤノーシュ博士の子孫で、宇宙で活躍した人などがいたのかも知れませんね。


 730年マフィア特集 
 OVA外伝 「螺旋迷宮」、良かったですね〜。 ここでは、嬉しいことに730年マフィアの各旗艦も艦名付きで登場しています。 しかし第2次ティアマト会戦はヤン・ウェンリーの時代から50年ほど前ですが、宇宙艦のデザインはまったく違ってるんですねえ。 これらの艦名の由来は、いずれもお客様より情報を頂きました。 ありがとうございました。

ハードラック (Hard-luck)
宇宙艦 宇宙暦745年、第2次ティアマト会戦当時の同盟軍宇宙艦隊司令長官、ブルース・アッシュビー大将の総旗艦。
由来 ハードラックって……もしかして Good luck の逆?
ひとこと ほんとに Good luck の逆だとしたら、アッシュビーらしいというか何というか……でもその後の運命を考えると皮肉な気もします。
ブリジット (Brigitte)
宇宙艦 第4艦隊(フレデリック・“マーチ”・ジャスパー提督)旗艦。
由来 スペルが違うので定かではないが、ブリギット(Brigit)はケルト神話の春の女神。同じ名前の女神が複数存在 し、アイルランドの女神はみなブリギットという一つの名前で呼ばれていたという。そのためその属性も、詩や学問、治療、工芸美術と幅広い。
ひとこと カッコイイですね、マーチ・ジャスパー。旗艦もいちばんバランスがいいスタイルに見えます。もっと活躍シーンを観たかったものです。
ルーガイラン (Lugeilan)
宇宙艦 第5艦隊(“バロン”・ウォリス・ウォーリック提督)旗艦。
由来 ミクロネシア・カロリン諸島の神で、天界より下って農業や入れ墨などを人間に伝えたという。
ひとこと 艦形はいちばん凹凸が少なくスラッとしてますね。どうせなら、シャンパンをすりかえるくだりを詳しく見たかったぞ(^^)。
ゴラ・ダイレン (Gora-daileng)
宇宙艦 第8艦隊(ファン・チューリン提督)旗艦。
由来 ミクロネシア・カロリン諸島の神話に伝わる冥府の神。悪人を死後に罰する。
ひとこと ファン提督も沈着冷静な指揮が冴えます。艦形はすこ〜しいびつかなあ?
トラウィスカルパンテクートリ (Tlahuixcalpantecuhtli)
宇宙艦 第9艦隊(ヴィットリオ・ディ・ベルティーニ提督)旗艦。
由来 舌を噛みそうな艦名だが、アステカにおける明けの明星(金星)をあらわす神(破壊神)の名。 太陽神トナティウが天に昇った際、神々に生贄を求めたため、これに腹を立てたトラウィスカルパンテクートリは太陽にむかって災いの光線を放っ た。しかし太陽の前には無力で、自ら放った矢で頭を貫かれ、その瞬間から冷気と石の神に変えられてしまった。夜明け前が冷え込むのはこのためという。
ひとこと 何だか提督の体にふさわしいスタイルの艦に見えましたね。奥さんの声を聞きたかったぞ、私は(笑)。
ヴィヴァスヴァット (Vivasvat)
宇宙艦 第11艦隊(ジョン・ドリンカー・コープ提督)旗艦。
由来 インド神話における太陽神。「輝くもの」の意。「リグ・ヴェーダ」に登場するらしい。
ひとこと 前半部が細長いスタイルが多い中では、少し異質の艦形です。 子供にドリンカーなんてミドルネームをつけるもんだろうか? と思っていたが、実際あるようです。


 うーん、単発登場の艦はともかく、本伝で登場する主力艦は、輝かしい名前に比べて不遇の艦が多いですね。
 特に、神々の名を冠した旗艦が次々と沈んでいったアムリッツァ会戦。まさしく「神々の黄昏」そのものだったと言えるでしょう。

 神話の「ラグナロック」では、神と悪魔の軍勢が最終戦争を繰り広げ、その結果、双方ともほとんどが倒れてしまいます(神さえも!)。しかし戦いが終わった後は、永遠の平和な時代が訪れるという大団円を迎えます。
 しかし銀英伝の世界では、戦いが済んでも、決して安寧の時代が訪れるわけではありませんでした。もちろんローエングラム王朝の善政を受け入れてしまえば、そうなるのかも知れません。しかし、少なくとも民主主義にとっては、新たなる試練の時代の始まりだったのです。決してハッピーエンドではなく、それから以降も長い長い困難の時代が始まるのです。

「そこから、長い長い建設と守成の時代が始まるのだろう。外は強大な帝国政府との折衝を続け、内には自主と自立の体制を整える。冬は長く、しかも春の到来は必然のものではない」 (第10巻236ページ)

 おとぎ話なら「めでたしめでたし」で終わりますが、たとえお話が終わっても、生き残った人がいて、生き続けていく限り、世界は続いていきます。困難も問題も、雲霧消散することなく、まとわり続けます。それこそが現実の世界なのでしょう。


 銀英伝の世界では、国家という神、絶対不可侵の皇帝という神、絶対的正義とされる民主主義という神が登場します。ところが作中で、これらの神は絶対的地位から相対化され、衝突しあい、倒れていきます(もちろん、民主主義が否定されたわけではありません。むしろ民主主義を意味も考えずに祭り上げ、結局形骸化させてしまった連中がいた、ということでして)。
 「国家、王朝は永遠である」「自分たちこそが絶対の正義である」という盲信が崩れ去り、新たな世界が始まったのです。

 宇宙暦796年から801年、銀英伝本編に描かれた、この激動の時代。これこそが、「神々の黄昏」であったのでしょう。神々の時代が終焉し、新たな人々の時代が始まったのです。「……伝説が終わり、歴史がはじまる」という銀英伝のエンディングそのままに。


「おまけのページ その他の同盟軍艦艇」



※ レオニダス、ザグレウスの艦名情報は、お客様より頂きました。
  また下記の艦名についても、それぞれ以下の方から情報を頂きました。有り難うございました。

 グランド・カナル : moderatoさん
 アムルタート : イザークさん、マナナンさん
 ヤノーシュ : まるじゅんさん
 ルーガイラン,ゴラ・ダイレン,
 ヴィヴァスヴァット
:Kenさん

※ 艦名のスペルは基本的にOVAのテロップで表示されたものを優先して記していますが、資料によって異なるものなどは併記しています。


参考文献:
1. 「世界の神話伝説・総解説」 自由国民社,1996年
2. T.ブルフィンチ(1796-1867)著、佐渡谷重信・訳 「ギリシア神話と英雄伝説」 講談社,1995年
3. 呉茂一 「ギリシア神話(上・下)」 新潮文庫,1969年
4. 「新版・世界史用語集」 山川出版社,1984年




宇宙艦関連ページリンク:

銀河英雄伝説の部屋
 このページをアップしてから発見したのですが、「銀英伝艦艇列伝」にはこのページが不要なぐらい詳しく、艦名の由来が帝国艦も含めて掲載されています。

Jonta Space Shipyard
 銀英伝に登場する宇宙艦の人気投票があります。同盟軍艦艇に清き一票を!(^^;)。

神魔百科事典
 世界中の神話について詳しく紹介されており、とっても参考になります。URL変更されたのでしょうか? ご存知の方がおられましたらぜひ。