鳥に餌をやらないで!

 今、各地の公園などではハトがどんどん増え、近隣ではフン害に悩まされるという話題をよく聞きます。 フン害に憤慨、などとカビの生えたことを言っている場合ではなく、ハトのフンから病気に感染する可能性だって否定はできません。
 ハトが増えた原因 − それは第一に、人間の責任です。
 本稿では、私たちにもっとも身近な街中の鳥に注目してみたいと思います。

 普通、公園や神社などで見かけるハトは、ほとんどがドバトです。

キジバト

 またキジバトも比較的よく見られます。 「ポッポポウ…デッデ、ポッポポウ…」と鳴いているのは、キジバトです。 首筋にある黒と青灰色の縞模様が目印です。
 日本野鳥の会 「フィールドガイド 日本の野鳥」 には、日本で記録されたことのあるハトとして、10種が挙げられています。 一口にハトといっても、結構いろいろいます。
 ただしその中でも、オガサワラカラスバト Columba versicolor は1889年に、リュウキュウカラスバト Columba jouyi は1936年に絶滅したと考えられています。 またベニバト Streptopelia tranquebarica は東南アジアのハトで、迷鳥 (普段いないが、台風などで偶発的に見られる) として記録されています。
 残る7種類のうち、ズアカアオバト Sphenurus formosae は奄美以南の琉球諸島に、キンバト Chalcophaps indica は南部琉球のみに棲息し、キンバトは天然記念物に指定されています。 シラコバト Streptopelia decaocto は関東地方にのみ棲息するという、変わった分布をしています。 全身黒色のカラスバト Columba janthina と、美しい緑色のアオバト Sphenurus sieboldii は海岸などで希に見られます。
 さて、残るキジバト Streptopelia orientalisドバトが、普段ごく普通に見ることの出来るハトです。 ドバトはもともと、ユーラシア大陸に分布するカワラバト Columba livia から伝書鳩や愛玩用として作られた品種改良種です。 それが逃げ出して野生化したもので、もともとその土地に住んでいたものではありません。 おまけにその食料をほとんど人間に依存しているので、一般にドバトは野鳥ではないとされます。 ドバトもよく見ると色にバリエーションがあり、意外と楽しめます。

ドバトのいろいろ

 ドバトは食料のほとんどを、人がやる餌や生ゴミなどに頼っています。 ある調査によれば、彼らが食べるうちで自然の餌は、今やわずか1割しかないそうです。
 1999年4月20日、NHKのクローズアップ現代で「増えすぎた平和の象徴」が放送されました。
 ハトといえば、平和の象徴。 しかし、広島市の平和記念公園ですらハトの増加に悩まされたため、ついにハトを減らすことにしました。 ゴミ箱には蓋をし、観光客用のハトの餌の販売をやめ、そして善意で餌をやっている人には市の職員が事情を説明する、という思い切った対策を講じたのです。
 これが功を奏し、ハトの数は1/4にまで減少したそうです。

 1999年6月24日の「今日の出来事」では、都心部でのカラスの増加が取り上げられました。
 単に増加しているだけでなく、通行人の頭上に急降下するなど、人を攻撃し始めているそうです。 もともとカラスが繁殖期に人を威嚇することはありましたが、最近は時期に関わらず年中襲ってくるそうです。
 カラスが増加した原因は、まず第一にゴミという餌が豊富である点。 第二に、ちょうど木のように巣を作りやすい高い場所(例えば街灯、建物の屋根など)が多いという点が挙げられます。
 日本野鳥の会の調査によれば、都心部でのカラスの棲息密度は郊外の2倍。 ゴミ置き場の8割が不完全で、カラスに荒らされやすい状態だったといいます。 つまり人間のゴミの出し方が悪いわけです。 東京都は夜間のゴミ収集を検討していますが、騒音や人員確保の問題があります。
 さて、単に増えるだけではなく、人間を襲うようになったのはなぜでしょうか。
 カラスにも餌をやる人がいて、人間を恐れなくなったためです。 さらに、最近は勢いづいて他の鳥も襲っているそうです。
 庭の木にカラスが巣を作って困っている個人宅が紹介されており、害鳥駆除許可を取った上で、業者に駆除を依頼していました。 ハンガーで出来た巣が業者の手で壊され、地上に落下したヒナは、炭酸ガスで安楽死させられました。
 この他、たとえば松戸市では「ハトに餌をやらない運動・ハトを自然の中に戻しましょう!」と書かれたのぼりが見られるそうです。
 すべての鳥が、人間に慣れて餌をもらうようになるわけではありません。 たとえば私がよくバードウォッチングに行った昆陽池公園 (兵庫県伊丹市) では、何種類ものカモが餌をもらうために足下まですり寄ってきます。 しかし一方で、人の多い岸辺には決して近づかない種類もいます。
 人間が餌をやればやるほど、人間に慣れることの出来る種類はどんどん強くなり、それ以外の種類は圧迫されることになります。
 広島市の例でもハトが1/4に減ったそうですが、減った分は他の土地へ移ったり、もちろん餌不足で死んだものも多いでしょう。 一見かわいそうなことではありますが、自然の餌でまかなえる適正な数になったということであり、生態系全体のバランスには必要なことではないでしょうか。

 バードウォッチングの本を見ますと、冬には野鳥の餌が少なくなるので、野鳥への餌のプレゼントと自宅での観察という一石二鳥 (← 鳥の話題には今一ですな、この単語 ^^;) を狙って、庭に餌台を作って鳥を呼ぼう、という話題がよく載っています。
 本稿は 「鳥にむやみに餌をあげないで」 という趣旨で書いておりますが、これは庭の餌台と矛盾するでしょうか?
 程度問題ではありますが、果物の一個でも置いておく程度なら、ほとんど関係ないでしょう。
 例えば昆虫採集でも、個人がちょこっと採集する程度だと、自然界に与える影響はほとんどありません。 一方、売り飛ばすために何百匹も採集する業者や、根こそぎ環境を変えてしまう開発の手に掛かれば、あっという間にいなくなってしまうでしょう。
 それと同じことで、たまに少しだけ餌をプレゼントするだけなら、何の問題もないと思われます。 ところが、公園でたまに見かけますが、パンくずなどを山のようにばらまいたりすると、何らかの影響は免れ得ないでしょう。
 ちなみに池の水は、付近の飲み水になることもあります。 ここに大量の餌をまくと、その飲み水が富栄養化で汚染される可能性も否定できません。

 冒頭に書きました 「ハトのフンから病気に感染する可能性」 について、少し触れておきましょう。
 「オウム病」という病気があります。 これは要するにオウムなど鳥の病気なのですが、困ったことに人間に感染する可能性もあります。
 このように動物にも人間にも感染する病気を 「人畜共通感染症」 といい、WHOによれば世界に122種類、うち日本では約50種類がみられ、オウム病もその一つです。
 原因はクラミジアと呼ばれる微生物で、ウイルスや細菌とは別の、病原体の一種です。 「オウム病」 と言いますが、その感染源はオウムに限りません。
 例えば、1991年国内で報告された239例の内訳は、インコ類60、セキセイインコ32、十姉妹15、ハト13、オウム8、カナリヤ4、文鳥5、九官鳥3、ニワトリ3、その他。 野鳥ではなく飼い鳥が多いことが分かります。
 オウム病はこれらの鳥のフンを介して感染し、インフルエンザとよく似た症状を呈します。 ただしだからといって、例えばハトのフンが頭に落ちたからといって、まず感染することはありません。 日常出会う野鳥に関しては、まったく気にすることはありませんので、あまり深刻には考えないで下さい。
 ただ、風邪がなかなか治らなかった人が、鳥を飼っていることを医者に告げるとすぐに治った例もあるそうで、鳥を飼っておられる方は頭の片隅に憶えておいていただくと良いでしょう。


 かつては 「都市砂漠」 「コンクリートジャングル」 などとも呼ばれ、都市は野生生物を疎外する象徴と見なされてきました。 しかし近年はこの都市に順応してしまう生き物が増えています。 ドバトやカラスはその最たる例です。
 最近は 「人間の作り出した都市という環境の中で、餌を探し、ねぐらをとり、子育てをし、時には人の存在そのものを利用して生活している鳥」 として、「都市鳥」という言葉も使われます。
 この都市という環境にもっとも順応した生き物はなんでしょうか?
 言うまでもなく、人間です。
 1999年7月19日、世界人口は60億を突破しました。 人類は都市という環境を造り上げ、その中の優占種として活動してきました。 やがては地球そのものが人類という強大な種族と、それに順応した一部の生き物たちだけの世界となるのでしょうか?
 おそらくそこまではいかないでしょうが、それでも順応できず消えていく生き物たちは、今後も増え続けるでしょう。 都市と自然の共存、それは都市の (つまり人類の) 自制と包容力にかかっています。 都市に呑み込まれない自然をこの地球上にどのくらい残せるか。 そして、都市の中にどれだけの自然を取り込めるか。 これは都市環境の多様性にもつながり、人類にとっても大きなメリットになるでしょう。
 人間の人為的環境と生物の共存 − それは今に始まったことではありません。 例えば、ツバメは古くから民家の軒先を利用してきました。 現在残されている自然と都市(人類)が共存共栄していく道も、きっとあると信じたいものです。

参考:
高野伸二「フィールドガイド 日本の野鳥」 日本野鳥の会,1991年
日本野鳥の会「野鳥」1996年3・4月号「特集・ごみと野鳥」
我孫子市鳥の博物館第15回企画展「都市鳥 − 都会派の鳥たち −」
NHKクローズアップ現代「増えすぎた平和の象徴」 1999年4月20日放送
読売テレビ「今日の出来事」 1999年6月24日放送
第10回日本臨床微生物学会総会・市民公開講座「ペットと感染症」(1999年2月3日)

1999.07.25


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