例えばこんなフィールドも


 バードウォッチングの本などを見てみますと、「身近なフィールドを持とう」 とよく書いてあります。 ここで言う 「フィールド」 とは、ここで鳥を観察するんだ、と決めた観察場所のことです。 観察はできるだけ沢山、それも定期的におこなった方がいいから、行きやすい身近なところを 「フィールド」 にしよう、というわけです。
 もっとも本には、慣れてきたら定期的に観察し、きちんと記録をつけて……なんて書いてありますが、私だってそんな面倒なことはやってません。 (もちろん苦にならない方は、どんどんお願いします)
 本には各地の有名探鳥地が紹介されていますが、近くにお住まいでもない限り、そうしょっちゅう行けるわけでもないですから、どうしても鳥とご無沙汰になってしまうでしょう。 ですから、そう言った意味でも身近で鳥を見ることの出来る場所があるといいですよね。
 しかし 「身近なところって言っても、近くにはそんなにいい場所はないよ」 とおっしゃる方も多いのではないでしょうか。
 私だってそんな 「フィールド」 は持っていませんが、「つれづれなるままに自然を楽しむコース」 は持っていました。
 といっても、特殊な場所ではありません。 住宅街を流れ、国道がまたいでいるごく平凡な川です。 駅から降りて会社まで、この川を横目に見ながら通勤していました。
 ごらんの通り、コンクリートで固められた味気ない川なのですが、よく見ると結構鳥に出会うことがあります。 さすがにそうそう見られるわけではありませんが、意外な出会いもあるかも知れません。

両岸をコンクリートで固められた
川ですが、
黄色い円の中では…
ゴイサギが魚を狙っていました。


 このような町中の川で、何種類ぐらいの鳥と会えると思いますか?
 これまでにスズメ、ハシブトガラス、ドバト、キジバト、ムクドリ、ヒヨドリ、ツバメ、カワラヒワ、セグロセキレイ、モズ、キレンジャク、キビタキ、コサギ、アオサギ、ゴイサギ、ユリカモメ、オナガガモ、ヒドリガモ18種類を見ることが出来ました。
 さらに、休日に少し上流へ向かうと、カワセミキセキレイなども見ることが出来ました。

 まずは近所の公園や川を思い出してみてください。 そこで何種類ぐらいの鳥が見られるでしょうか。
 種類は季節によっても、時間によっても変わります。 朝しか通らない道を夕暮れ時に通ると、また違った光景に出会えるでしょう。
 「さあ、鳥を見るんだ」 と身構えて出かけるのではなく、ぶらりと歩きながらついでに、というのが、飽かず、疲れず、楽しめるコツではないかと思います。


 そしてもう一つの楽しみ方。
 何も鳥にこだわる必要はありません。 同じ場所をいつも見ていますと、季節の移ろいなどの自然の変化に気付くようになります。
 もちろん渡り鳥がその代表で、ツバメが来ると初夏を感じ、カモやカモメが来ると秋も深まってきたな、などと感じるのですが、鳥の他にも変化を感じさせるものがあります。
 例えば、木々や草花。 桜などその代表でしょう。 4月になると、こんなところにも桜があったのか、と改めて驚かされることもありますよね。
 蝶やトンボなどの昆虫。 季節の変化の他、それまでは見られなかった種類が見られるようになることもあります。 例えば、今年(1999年)はこの辺りでもジャコウアゲハ(比較的南方系の蝶)がよく見られました。
 そして、川そのものも日々変わっていきます。 真夏には水量が急激に減り、また大雨が降ると増水して、表情を変化させます。
 あるいは、空。 黄金色に輝く朝焼けや夕焼け。 純白の入道雲。 千変万化の様々な雲。 その場限りの、一瞬の芸術。
 これまでに2回、川をまたいでかかるを見ました。 その時は「この時間、この場所にいて良かった」と心から思ったものです。

八重桜と菜の花。
春の象徴ですね。
川に架かる虹。
とっても幻想的でした。



 さて。
「自分の通勤経路にはそんな自然はないよ」 とおっしゃる方も多いでしょう。
 実は、上で紹介した川は、いちばん最寄り駅ではなく一つ手前の駅で降りて、15分ほどよけいに歩くコースです。 そんなわけで、運動不足とストレスの緩和にもわずかながら役立っています。
 普段の経路にいい場所が無くても、ちょっとコースを変えてみれば、思わぬ違いがあるかも知れません。
 あるいは休日だけでも、歩いて(または自転車程度で)行ける範囲に、そんな所はないでしょうか。
 さらには電車から一瞬見るだけでも、いつも見ていればきっと違いに気付きます。 昨日までいなかったカモの群。 季節に応じて変わる木々。
 専門家から見ると笑われるかも知れませんが、それだって立派な 「フィールド」 です。 そんな身近なところに眼を向けてみるのもいかがでしょうか。 きっと、それまで気付かなかった発見があるでしょう。

1999.10.02


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