素人の、素人による、素人のための−
バードウォッチングの勧め
私のきっかけ
私は以前からいろいろな生き物が好きでしたが、特に鳥に熱中するようになったのは、大学時代からです。
とある海岸近くの川べりで、水面を飛翔する大きな鳥がいました。
青灰色の鳥はずいぶん大きく見え、力強く羽ばたいていく姿に、しばし見とれていました。
大学の後輩に 「これこれこんな鳥がいたが、何て鳥だろう?」
と訊くと、 「ああ、アオサギですね」 とあっさり答えてくれました。
今思えば、そういう大きさと色の鳥はまずアオサギしかあり得ない、ということは分かりますが、その時はよく分かるな、と思ったものです。
この頃から、ただ漠然と鳥を見るだけではなく、どんな種類だろう、ということを意識するようになりました。
同じ頃、近所の川で真っ白い鳥を見つけました。
コサギです。
ちなみに一般には 「シラサギ」 と呼ばれますが、実はシラサギという種類は存在しなくて、ダイサギ、チュウサギ、コサギ、アマサギのいずれかです。
ろくな自然もない住宅街のただ中にある、ほとんど用水路同然の川。
そこに佇む純白のコサギは、まさに 「掃き溜めにツル」
そのものでした。
アオサギにしろコサギにしろ、実はそれほど珍しい鳥ではありません。
街中の河原や公園などでも、よく見られます。
バードウォッチングといっても、何も難しく本格的に考えずとも、街中にいる鳥たちを見るだけでも十分楽しめるものです。
ここでは、私のような素人から見たバードウォッチングの楽しみ方などを書いてみました。
専門家の方から見ると 「ちょっと違うんじゃない?」
と思われる点もあるかと思いますが、そこは一素人の私見としてお許しください。
アオサギ | コサギ |
バードウォッチングのベストシーズン
毎年5月には愛鳥週間があります。 ならば、バードウォッチングもこの頃がいい、と思われるかもしれません。
愛鳥週間というのは、もともとアメリカでは4月10日が
「バードディ」 で、これにちなんで日本でも1947年4月10日を第1回バードディとしたのが最初だそうです。
現在の5月10〜16日になったのは、1950年からだそうです。
この5月から後、真夏の頃までは、実は比較的鳥が見にくくなる季節です。
もちろん慣れた人なら、この季節でもいくらでもできるのですが、愛鳥週間に鳥を見たくなっても、それからしばらくは見にくい季節なので、がっかりしてしまう恐れがあります。
鳥は季節によって見られる種類が異なるので、バードウォッチングはどの季節がいいか、というと、もちろんどの鳥を見たいか、ということになります。
しかしまずは、私たち初心者が気軽に見ることのできる季節を考えましょう。
それは、ずばり冬です。
まず第一に、冬は木の葉が落ちるので、木の枝に止まった鳥を見つけやすい。
そして第二に、数も多く比較的観察の容易なカモやカモメは、ほとんど冬鳥だからです。
冬鳥というのは、夏はシベリアなどで過ごし、冬は日本で寒さをしのぐ鳥です。
逆に夏だけ日本へ避暑に来るのは夏鳥、渡りの途中に日本を通過して行くだけの鳥は旅鳥、そして渡りをせずに年中いる鳥は留鳥と呼ばれます。
カモというと、カルガモを思い出す人も多いでしょう。
日本にいるカモの中で、カルガモだけがほぼ唯一の渡りをしないカモで、その他は大半が冬が終わるまでに北へ帰っていきます。
近所の公園などにカモがいたら、よく見ていてください。
冬はいろいろな種類のカモがたむろしているのに、春までにカルガモ以外は姿を消すはずです
(中には例外的に残留するのもいますが)。
カルガモは写真のようにくちばしの先に黄色い帯があるので、すぐに区別できます。
でも、真冬は寒い。 双眼鏡もすぐに曇ってしまいますので、無理せずにいきましょう。
これからバードウォッチングをやろう! と秋に決断した場合は、すぐにベストシーズンが期待できます。
春や夏に決断した場合は少々見つけにくいかも知れませんが、次の冬が来れば、きっと楽しめす。
バードウォッチングの準備 その1
最低限いるのは双眼鏡と図鑑。バードウォッチングの本を見るといろいろ山のように書いてありますが、あとは好みと常識の問題ですね(^^)。
よほど山奥にでも行かない限り、凝りすぎるとかえってまずいこともあります。
ほとんどサバイバルゲームか? と言いたくなるような迷彩装備で鳥を見てる人が希にいますが、これって異様。
狩猟シーズンだと危険とも言われます。
双眼鏡にもいろいろありますが、カバンにも入る小さなものがあると便利です。
「さあ、鳥を見に行こう!」 と決めて出かける場合以外にも、買い物の途中や仕事の出張中などで思いがけず鳥に出会うこともあります。
私は出張にも双眼鏡を持っていきますので、スーツ姿で鳥を見ている変なヤツがいたら、それは私かも知れません。ぜひ声かけて下さい(^^;)。
図鑑も最近はいろいろ出ていますので、本屋さんで気に入ったものを選ばれると良いでしょう。
もしも余裕があれば、携帯用の小さいものと、観賞用の大きなものを揃えることをお勧めします。
携帯用でいちばんお勧めできるのは、日本野鳥の会の野外観察ハンドブック
「山野の鳥」 「水辺の鳥」 (税込み各550円)
です。 常時携帯も苦にならないコンパクトさにも関わらず、大抵はこの2冊で間に合います。
観賞用の大きなものは、イラストではなく写真がたくさん載っているものが良いと思います。
イラストは特徴をつかむのに最適なスタイルですが、どうしても
「生きた生物である」 という実感には欠けます。
生きている鳥の瞬間をとらえた写真は、その鳥の
「命」 を実感できます。 鳥の美しさは、やはり写真に勝るものはありません。
採食中、求愛中、子育て中などの写真は、その鳥への愛着を増すでしょう。
ですから、こちらはどの本がお勧め、ということはありません。
本屋さんでいちばん気に入ったものが最良のものです。
どうやって鳥を見るか
私が双眼鏡を手にして最初にした過ちは、飛んでいる鳥を必死になって捉えようとしたこと。
これは、無理です (ただし大型の鳥は別です)。
飛んでいる鳥がいたらそれを肉眼で追い、止まる場所を確認します。
また木の上から鳥の声が聞こえてきたら、まず肉眼でどこにいるのかじっくり探します。
当然、木の葉のない冬の方が探しやすいわけで、だから冬がベストシーズンなのです。
止まっている鳥を見つけたら、初めて双眼鏡を覗きます。
鳥を見つけたら、そのまま視線を動かさずに双眼鏡を目に当てれば、視界に鳥を入れやすい……といいますが、結構難しいものです。
鳥が止まっている枝を肉眼で分かりやすい目印まで辿っていき、双眼鏡でその目印を入れてから逆に辿っていくという方法もあります。
木の葉が茂っていて声はすれども姿は見えず……といった場合は、声のする方を双眼鏡で探すと見つかるかも知れません。
水鳥の場合は、とにかく双眼鏡を取り出して水辺を舐めるように見ていきましょう。
思いがけない水草の影にいたり、あるいは遠くで何かが浮いていると思ったら、実は水鳥だったりします。
池が大きいと水鳥も遠くなるので、大きな池では望遠鏡がお勧めです
(望遠鏡については 「バードウォッチングの準備
その2」 で)。
どんな場所に行くか
鳥はどこにでもいます。 近所の公園などにもいますが、人が沢山いるところでは、鳥も見る方もやはり落ち着きません。
中には人に慣れた鳥がわんさといる公園もあって、双眼鏡も不要なぐらいカモがそばに寄ってきます。
しかしあまりに慣れすぎて、ほとんど 「箕面のサル」
状態の公園もあります。
私のお勧めは、川沿いを歩いていくことです。
まず近所の川に注目してみましょう。 その川の河口から上流まで辿っていくと、鳥だけでなく街や自然の風景の変化が楽しめます。
上流へ辿っていくと住宅街の用水路や溜め池で終わってしまうような短い川かも知れませんが、それも一つの発見です。
洗剤で泡立っていたり、ゴミが浮いていたりするような
「発見」 もあるかも知れません。 そしてそんな川にさえ、鳥がいることを発見するでしょう。
ささやかな川にもコサギやハクセキレイが訪れ、堤防の木々にはムクドリやカラ類がいるでしょう。
たとえ小さな川でも、おそらくどこかで大きな一級河川に流れ込んでいるでしょう。
地図をざっと見て、中州があったり、支流との合流点や公園などに面した箇所があれば狙い目です。
一度にすべてを制覇する必要はありませんから、最初の日は河口付近、2回目は中流、3回目に上流などと分けて行けばよいのです。
少なくとも平野部の川では、自動車はなるべく避けましょう。
止める場所が制限されるし、車で動いている間は細かい自然にまで目が行きません。
その川に沿って鉄道やバス路線があれば、これほど観察しやすい川はありません。
どんどん行けるところまで歩いていき、疲れたら電車で帰ってくる。
引き返すのに要する時間や体力を気にしないでいいので、気軽に行えます。
もちろん、余裕があれば帰りは対岸を歩くのもいい方法です。
上流といっても山間部まで入っていくと、これはもうバードウォッチング以前に山登りになるでしょう。
ここから先は無理せず、もっと鳥に慣れてからの方がいいかも知れません。
私の経験では、山登りになると鳥にまでなかなか気が回らなくなります。
もっとも、山登りのついでに鳥も見る、ということでしたら、この限りではありません。
冒頭に書きましたように、鳥はどこにでもいます。
遠くへ出掛けるのも良いですが、近所の鳥、あるいは自宅の庭に来るような鳥にも注目して下さい。
スズメとカラスぐらいかと思っていたのが、以外と多くの種類に出会えるでしょう。庭に餌台を置くと、家に居ながらにして楽しめるそうです。
私ん家は庭がないので、できません…(T_T)。
探鳥会……?
バードウォッチング紹介の話になると、 「探鳥会に参加しよう」
というのがお決まりの項目として必ず登場します。
ただ私としては、探鳥会がお勧めできるかどうかは
「?」 です。参考までに一度は参加されると良いと思いますが、過剰な期待はされない方がいいかもしれません。
私の経験から申しますと、まず驚いたのは若者がいないこと。
ほとんどが家族連れとか年輩の方です。
そして初心者がいきなり参加しても、すぐには馴染めないこともあります。
希な例かも知れませんが、中には詳しい人や身内だけで盛り上がり、初心者、新参者、部外者などは入りづらいことがあります。
むろん、それぞれの探鳥会の規模や性質、リーダー、あるいは地域性などによって変わるので、決してすべての探鳥会がそうだということではありません。
ただ、たまたま参加した探鳥会がそんなタイプかもしれない、という心の準備はされた方がいいでしょう。
こう書くと 「じゃあやめとこう」 と思われる方も多いでしょうし、実際に探鳥会を運営されている方からは怒られると思います。
でも、これは現実の経験ですし、日本野鳥の会機関誌をはじめ、多くの場所で指摘されていることです。
で、探鳥会リーダーの皆さんはボランティアであり、限界もある。
初心者側もリーダーにすべて依存せず、もっと積極的になってほしい……などというコメントで締めくくられています。
これらの記事を読むと、つまりは 「探鳥会と言えども万能ではない」
ということになるのではないでしょうか。 もちろん関係者の方は充分に努力されており、大抵の場合、決して誰かに責任があるわけではありません。
この問題はやむを得ないことなのだと思います。
つまり、探鳥会の現実、限界、理想をもっとさらけ出し、あまりに過度の期待をかけすぎない方がいいのではないでしょうか。
残念ながら、探鳥会がきっかけで鳥から疎遠になったという話も聞いたことがあります。
ここで私が申し上げたいのは、万一、探鳥会がつまらなかったとしてもそれだけでバードウォッチングをやめてほしくないということです。
初心者の方は、いきなり探鳥会に参加するより、自分の見方、楽しみ方をある程度つかんでから参加されてはいかがでしょうか
(もちろん、明確に初心者向きをうたった小規模の探鳥会ならば、その限りではありません)。
より良い探鳥会のためには、初心者もベテランも、もっともっと本音をぶつけ合うべきだと思っています。
そうすれば、既存の探鳥会を変えていくなり、探鳥会を越えた新たなものを構築するなり、新しい何かへのきっかけになるのではないでしょうか。
バードウォッチングの準備 その2
最低限必要な装備は双眼鏡と図鑑、と書きましたが、ここではもう少しステップアップしてみましょう。
観察記録用のノート (これを 「フィールド・ノート」
という) は、バードウォッチングの装備の話になると、必ず登場します。
しかし最初から難しく考えることはないと思いますので、敢えて
「その1」 では書きませんでした。
バードウォッチングはこうしなければならない、という決まりはないと思っていますので、観察記録もどうしても付けなければならない、ということはないと思います。
付けるにしても、どんなノートを使うか、どのように付けるかは自由です。
ただ、探鳥に慣れてきたら、何月何日にどこにどんな鳥がいた、何羽ぐらいいて何をしていた、そんなことを自由な形で何かに書き留めていけば、将来きっと良い思い出になると思います。
もちろん記録することが苦にならない人は、学術的記録というのも心がければ、きっと世の中の役に立つものができると思います。
望遠鏡を使うと、よりじっくり鳥を観察できます。
望遠鏡を鳥に向けて固定すると、他の人にも見せてあげることができます。
専用のアダプターをつければ、写真を撮ることもできます。
私はもともとバカチョンカメラしか持っていなかったのですが、ただただ手持ちの望遠鏡で鳥を撮りたいためだけに、一眼レフカメラを手に入れました。
ところで、天体望遠鏡は上下が逆になるので、バードウォッチングには向きません。
バードウォッチング用の望遠鏡がいくつか発売されています。
数万円と少々高価ですが、それだけの価値はあると思います。
望遠鏡、三脚、一眼レフカメラ、とフル装備になると結構な重さになるのが難点ではありますが。
もともとお金をかけるつもりのなかった私が望遠鏡を買ったのは、大阪南港野鳥園がきっかけでした。
友人と約束して出掛けたものの雨になってしまい、観察舎から見ていたのですが、野鳥園の方が望遠鏡を持ち出して見せて下さいました。
その時、望遠鏡だと双眼鏡でも見づらい遠くの鳥が手に取るように見えることに感動しました。
もし望遠鏡を手にされたら、それを持って観察に出掛けたら、どうか他の人にも見せてあげて下さい。
私は探鳥会ではあまりいい思いをしませんでしたが、個人的に出掛けたときには人に見せてあげたり、あるいは持っていないときには見せてもらったりして、気分良く探鳥できたものです。
今、手元のバードウォッチングガイドに載っている装備品一覧を数えてみたら、着替えからテントまでなんと62項目もありました。
こんだけあったら本格的な野宿だってば!
バードウォッチングにはこれが無ければならない、こうしなければならない、といった決まりは、個人の趣味である限りは存在しないはずです。
それぞれの人が、それぞれの楽しみ方をすれば良いではありませんか。
ただし、それが自然破壊にならないように注意する必要はあります。
「バードウォッチングの準備」 で大切なものとして、最後にそうならないようにするための「心の準備」を挙げておきたいと思います。
私は小さい頃から学生時代まで、昆虫採集にも熱中していました。
バードウォッチングは見るだけだから、採集よりは罪は少ないでしょうか?
そんなことはありません。 昆虫は個体数が多いので、一匹を採集してもほとんど影響しませんが、鳥は一羽の被害がとても重大です。
ですから方法を誤ると、採集どころではない自然破壊にもなり得ます。
鳥の巣に向かってバードウォッチャーの望遠鏡や望遠レンズが砲列のごとく向けられ、親鳥が落ち着きをなくしてしまう……そんな例もよくあると聞きます。
日本野鳥の会大阪支部の 「むくどり通信」
No.115 (1995年1月) に、こんな記事が掲載されていました。
西南日本に夏鳥としてやってくる、ヤイロチョウという美しい鳥がいます。
宮崎県の御池野鳥の森でも見られるということですが、姿を見るのは難しい鳥です。
ここの森は林床部がフカフカしたスポンジ状で、これが森の豊かな生態系を支えています。
だから、むやみに林床部には入らないようにしているそうです。
ところが、よそから来た人がヤイロチョウを求めてこの林床部へ足を踏み入れてしまうことがよくあるそうです。
「まるでローラー作戦だ。横に並んで追い出しをはかっているようだった」
という宮崎県支部の方の証言もありました。
たとえ鳥を愛するがゆえであっても、結果的にこうなってしまっては何にもなりません。
重油流出事故で油まみれになった水鳥。 捨てられた釣り糸にからまった小鳥たち。
近隣の工事で営巣できなくなったワシタカ類。
巣を作りやすい場所がどんどんなくなっていくツバメ。
できれば、そんな面にも目を向けていただければ、と思います。
そうして皆が身近な自然、滅びゆく自然、それでもしぶとく生き延びていく自然に目を向けていただければ、近年話題の環境問題にも、何らかの光明を見出すきっかけとなるのではないでしょうか。
1998.12.01