フユシャクガ

  

クロスジフユエダシャク Pachyerannis obliquaria
左:オス、右:メス

撮影:nomionさん(有り難うございます!)


 フユシャクガ (冬尺蛾) はシャクガ科 (幼虫がいわゆるシャクトリムシ) の中で、冬にだけ成虫が出現する種類の総称。 冬にだけ現れ、メスは写真のように翅が退化していて飛ぶことが出来ず、オスもメスも口吻が退化していて餌をまったく食べないという、昆虫の中ではかなり風変わりな特徴を持つ一群である。
 大阪市立自然史博物館・第17回特別展解説書 「蝶・蛾の世界 − 蝶のルーツをさぐる −」 (1990) によれば、日本には12属28種。 週刊朝日百科 「動物たちの地球78 イラガ・ヨナクニサンほか」 (1992) では35種となっている。 メスは何しろ飛ばないため見つけにくく、1990年時点でメスが発見されていない種類が3つある。
 なぜメスの翅が小さくなったり退化しているかというと、 「体の表面積を小さくし、外界の気温変化の影響を少なくしている」 とか 「強風に飛ばされないための適応の意義もある」 などと言われている。 また口吻がない理由についても、冬には口吻で蜜を吸うような花がなく、体内に餌を取り込むと低温時に体液が凍るきっかけとなる核 (凍結核という) になるので、餌をとらなくてもすむ体に進化したのではないか、という。
 すなわち、気温が低く、風も強く、餌さえない冬という環境に適応した結果と考えられるのだが、そもそもなぜ冬というより苛酷な環境に適応したのだろうか。
 冬は活動する生き物が少なく、昆虫にとっても天敵に襲われにくいからかも知れない。 とすると、より苛酷な環境に追いやられて、ほそぼそと生きているようなイメージが思い浮かぶが、さにあらず。
 種類によっては、じっとしている限りはマイナス10度以下でも大丈夫だったり、「野外から持ち帰ったフユシャクのメスを、暖房した部屋においておくとたちまち元気がなくなるのに、冷蔵庫に入れると元気に走り回るありさま」 なのだそうな。
 つまり、消極的な妥協として冬に出てくるのではなく、冬という環境に積極的に適応しているらしい。 平たく言えば、いやいや冬に出てくるのではなく、冬が好きらしいのだ。
 何とも面白い昆虫であり、生物の適応の不思議さを感じさせてくれる。

「他の昆虫たちの見当たらない冬の夜の林の中で、フユシャクの雄の乱舞に出会う。 季節を巧みに利用して自然の中で生きていくその姿には、感動を覚えずにはいられない」(中島秀雄, 「動物たちの地球78 イラガ・ヨナクニサンほか」)

 それにしても、冬が好きだとすれば、これからより深刻になるであろう地球温暖化は、彼らに対しても深刻な影響を及ぼすことになるかも知れない。 さあ、電気や自動車の浪費をやめよう!(^^;)