フクロウ雑記帳


 どういうわけか小さい頃からいろんな動物が好きで、どこかへ出掛けると動物にまつわる小物(キーホルダーや箸置きや…)を買っていましたが、いつの頃からか、フクロウをコレクションするようになってしまいました。
 なんでまたフクロウになったのかよく覚えていないのですが、一つには昔よりもフクロウグッズがたくさん作られるようになって、意識せずとも相対的にフクロウが多くなっていたのかも知れません。 ともかく、今は意識的にフクロウに絞っています。
アオバズク写真
 フクロウとは 「フクロウ目 Strigiformes」 に分類される鳥の総称で、日本鳥類保護連盟の「鳥630図鑑・新装版」(1998年)によれば、全世界に146種類います。 フクロウ目は「メンフクロウ科 Tytonidae」 2属12種と「フクロウ科 Strigidae」 28属134種に分かれます。
 日本で記録されたことのあるフクロウは、1975年西表島で唯一記録のあるヒガシメンフクロウ(以前の文献ではミナミメンフクロウ Tyto capensis )を含めて12種が載っています。
 フクロウは夜行性が多いので、私のような素人はなかなか出会えません。 昼に見つけても、暗い林の中だと写真も撮れません(ダメですよ、フラッシュなんか使っちゃあ!)。 右は、これまでに唯一写真に収めることができたアオバズクです。

 フクロウの魅力とは何か…。
 ぬいぐるみのようにムクムクした胴体、ユーモラスな顔、愛嬌のある耳。 ただしあの耳のような羽は、「羽角」あるいは「耳羽」と呼ばれていますが、実は耳とは何ら関係ありません。 フクロウの中でも羽角のあるのがズク (ミミズク) とも言われますが、ズクの中でもアオバズクのように羽角のない種もいます。 この羽角の有無によって分類されているわけではないそうです。
 私見ですが、最大の魅力は正面に並んだ目、ではないでしょうか。 大半の鳥は目が頭の横側についていて、ほとんど360度を見渡すことができます。 ところがフクロウは目が顔の正面についているため、視野が110度しかない。 ちなみに人間は170度。 人間より狭いんですね。 その代わり、人間同様に立体視が可能となり、狩りに有利となっています。
 狩る側としては有利だが、後ろが見えないのは狩られる側に立つと不利です。 そこでこの不利を補うべく、フクロウの首はぐるりと回転させることができます。 まるで映画「エクソシスト」であったように、首だけ真後ろへぐるりんと回せるんですね。 また人間は目だけを動かせますが、フクロウはできないので、首を動かすことで視線を動かすのだそうです。
 ちなみに鳥類は色を区別できるそうですが、フクロウは目の構造から色を識別できないと考えられます。 まあ夜はそんなに支障はないのでしょう。
フクロウ剥製
 この、他の鳥類とは際だった違いを見せる目。 人間と同じく顔の正面に並んだ両眼。 これこそがフクロウの擬人化を可能とし、愛着を持たせる主因ではないか、と思っています。
 例えば、眼鏡をかけたフクロウの置物なども見かけます。 眼鏡をかけてさせて様になる鳥は、フクロウをおいて他にいないでしょう。 これも、両眼が正面に並んでいるおかげではないでしょうか。
 また剥製の写真(左)は、スキャナで取り込むとあまり雰囲気がなくなっちゃったのですが、どことなく人間が首をかしげているような、人間くさい雰囲気があると思いませんか?
 最近では、夜に目が効くということで受験生のお守りともされるとか。 暗闇でも見えるなら、日本経済の先も見通してもらえないでしょうかね。

 今でこそ人気のあるフクロウですが、何しろ夜に活動することが多いので、昔はマイナスのイメージで見られることが多かったようです。
 ヨーロッパではフクロウの鳴き声がしている間に生まれた子供は一生悪運につきまとわれるとか、インドでも凶鳥と見なされ、王に災厄が降りかからないように、災害の女神に供物として捧げられたとか。 中国や日本でも、フクロウが鳴くと人が死ぬとか、家の近くで鳴くと凶事や心配事があるなど、まあ随分ひどい言われようです。
 しかしその一方で 「フクロウが鳴くと晴れる」、地方によっては逆に 「雨が降る」 とか、もっと細かく 「夜明けのフクロウは雨、宵のフクロウは晴れ」 (三重県志摩郡)、「朝鳴くと晴れ、夕方鳴くと雨」 (山口県佐波郡)、「日陰で鳴くと雨、日なたで鳴くと晴れ」 (福井地方) と、気象と結びついた多様な言い伝えがあります。
 その判断基準は地方によって様々で、根拠や精度は分かりませんが、それだけフクロウが身近で毎日の暮らしに結びついていたということでしょう。 フクロウ(総称としてではなく、種としてのフクロウ Strix uralensis )は 「グルスク ホッホ」 と鳴きますが、これは 「ゴロ助奉公」 「ボロ着て奉公」 などと聞きなされます。 これは、一般庶民はそれほどマイナスイメージを持っていなかったことを示しているように思います。

 マイナスイメージは夜行性が多いからだからだろう、と書きましたが、フクロウ類の他にも夜行性の鳥はたくさんいます。 これらの鳥は、古来から妖怪と関連づけられていたようです。
 例えば、河童。 九州各地には秋の深夜、河童が鳴きながら移動していくという言い伝えがある。 その移動の季節や経路を調べると、どうやらその正体はアオアシシギらしい、ということです。
 ヌエという妖怪も有名で、平家物語にヌエ退治の話が出てきます。 何かの映画にも「ヌエの鳴く夜は…」とかいったフレーズがありましたね。 この正体はトラツグミで、夜に「ヒョーヒョー」と人が泣くような気味の悪い声で鳴きます。 最近ではこの声をUFOの音だと言う人が出て、騒ぎになったこともあるそうです。
 「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な砂かけ婆。 この正体は、鳥ではありませんがムササビだという説もあります。
 しかし…アオアシシギもトラツグミもムササビも、声はともかく、どうしてそれ自身がマイナスイメージにならなかったのでしょう? どうしてフクロウだけが、声だけでなく鳥自身がそう見なされてしまったのでしょう?
 それだけフクロウが身近で目立つ存在だったということではないでしょうか。 小さな鳥だと、夜中に鳴き声がしてもなかなか正体が分かりません。 昼間でも、例えばウグイスは鶯色の鳥だと思っていませんか? ウグイスは茶色の非常に地味な鳥で、しかも草むらに隠れて鳴くので、声はすれどもあまり姿を見かけません。 一方、鮮やかな黄緑色のメジロがウグイスだと間違われることは案外多いようです。
 今でこそ都市化の影響でフクロウを見かけにくくなりましたが、かつてはフクロウはもっと民家の近くに営巣したり、どの村にも鎮守の森があって、フクロウを見かけることは多かったのでしょう。 だから鳴き声とその正体が乖離せず、良い悪いは別にして様々なイメージが生まれていったのでしょう。
 ただしコノハズク Otus scops のことを考えると、この考えはあまり自信がありません。 コノハズクは声は愛されたのに、その声は別の鳥のものと間違われた、ひどい経験をしています。 コノハズクの鳴き声は「ブッポウソウ(仏法僧)」と聞こえるのでめでたいとされましたが、たまたま分布や活動時期の近い全然別の鳥の声と間違われ、その鳥が「ブッポウソウ」と名付けられました。 ところが1935年、NHKが「ブッポウソウ」という鳴き声を全国に放送したとき、浅草で飼われていたコノハズクがこれにつられて「ブッポウソウ」と鳴きだし、この鳴き声がコノハズクであると解明されるきっかけとなったそうです。
 しかしそれでも、コノハズクもブッポウソウも、今でも名前はそのまま。 不思議なものです。

 マイナスイメージの一方で、フクロウは 「森の賢者」 「哲学者」 とも称されてきました。 他の鳥のようにせわしなく飛び回るでもなく、森で出会っても落ち着き払ってじっと見つめ返している悠然とした様子から、そんなイメージが生まれたのでしょうか。
 特に古代ギリシャでは知恵の女神アテナのお気に入りの鳥だったことはよく知られています。 女神アテナが守護神の都市国家アテナイのあった辺りにはフクロウが棲息しており、「フクロウをアテナイへ」 という諺は 「釈迦に説法」 のような意味だそうです。 英語の 「Owlish(フクロウのような)」 という形容詞には 「まじめくさった」 という意味もありますが、やっぱり知恵のシンボルだったためでしょうか。
 中には、最高神として崇められてきたフクロウもいます。 シマフクロウ切手
 北海道に棲息するシマフクロウ Ketupa blakistoni は、アイヌ民族の間では「コタンコルカムイ」という村を守る最高の神とされてきました。
 国松俊英氏は北海道然別湖近くの山田温泉でシマフクロウの鳴き声を聞き、村に近づく悪魔を追い払ってくれる鳥ということが理解できるような、重く力強い声であったと記されています。
 熊などの動物神を天国へ送る 「イオマンテ」 という祭りは有名で、シマフクロウのための祭りも行われてたそうです。 最近では1983年に行われましたが、この時のシマフクロウは釧路市動物園からの借り物だったそうです。
 ところで、フクロウがお気に入りの女神アテナは都市国家の守護神でもあり、村の守護神であるシマフクロウと何か相通じるような気もします。

 シマフクロウは絶滅の危惧される鳥の一つで、北海道での個体数は数十頭と推定されています。 なぜそんなにまで減ってしまったのでしょうか。
 この鳥の主食は魚が多く、産卵期に河を遡上するサケなどに依存していたと考えられます。 ところが近年は河川改修と人工孵化事業によりサケの大群が河を遡上することはほとんどなくなり、シマフクロウが食糧難に陥ったものと考えられます。 さらに巣をつくれるような大樹が減ったための住宅難、そして絶滅危惧種として有名になったために人気が高まり、一部の無神経なバードウォッチャーやカメラマンがフクロウにストレスを与える、などの理由が挙げられるそうです。

 1998年、日本中が盛り上がった長野冬季オリンピックでは、スノーレッツというフクロウらしきキャラクターがマスコットに選ばれました。 何でもこの名前は 「Snow」+「Let's」 に 「Owlet」 (フクロウの子、または小さなフクロウ) を引っかけたものだそうです。
 冬の長野県でも見られる、小さな羽角があるフクロウ……コミミズクかな?
 マスコットやアクセサリーなど、生物をモチーフにしたものが人気になるのは、自然に親しむ第一段階としては素晴らしいことです。 環境破壊などで本物のフクロウたちは次第に住み難くなっています。 動物グッズを手にしたら、ぜひとも本物にも思いを馳せていただければと思います。

参考:
  日本鳥類保護連盟「鳥630図鑑・新装版」1998年
日本野鳥の会「フィールドガイド日本の野鳥・増補版」1991年
週刊朝日百科「動物たちの地球 25・フクロウ・トラフズクほか」朝日新聞社,1991年
国松俊英・谷口高司「鳥のことわざうそほんと」山と渓谷社,1990年
岩本久則「バードウォッチングの魅力」(主婦の友社「bird song」解説)1989年
呉茂一「ギリシア神話(上)」新潮文庫,1969年

1998.12.01