鎌鼬 (かまいたち)

 両手が鎌になったイタチの姿で、通行人を切りつけていく。 切られた人はいつ切られたか気付かず、痛みがないとか出血がないとも言われる。 つむじ風にのって現れるとされ、フィギュアのバックの渦もそのつむじ風を表したものだろう。 しかしいくら何でも、お地蔵様を切らんでも……。
 つむじ風などで真空が生じ、これが皮膚に裂傷をつくる自然現象であると言われる。 妖怪の中では珍しく具体的に 「解明」 されているが、本当にこうなるほどのつむじ風はなかなかないと思うが……。

 岐阜県の伝説では鎌鼬は三兄弟で、道を歩いている人がいると、一番手がその人を転ばせ、二番手が切りつけ、三番手が痛み止めの薬をつけていくという。だから痛みを感じないのだそうだ。
 近年の妖怪SFマンガの最高傑作で少年マンガとしても一級品の藤田和日郎 「うしおととら」 には、メインキャラとして鎌鼬三兄妹が登場している。 雷信、十郎、かがりという名で、第9章(5巻)から登場、雷信とかがりはラストまで結構重要な役を担っている。 自在に空を飛べ、クライマックスの最終決戦で自衛隊のF15戦闘機と一緒に飛んでくるとこなんざ、なかなかしぶい。
 彼らはおそらく岩手県遠野地方あたりの出身と思われるが、ここでも一番手が人間を転ばせ、二番手が切りつけ、三番手が薬をつけていくというスタイルになっている。ちなみに年齢は400歳。これでも妖怪うちでは若い方らしい。
 ところで三番手のかがりは、人間の姿をしている時はボディコン美女なのね。やはり妖怪の世界にも現代の風潮は浸透しているようで(笑)
 さらに「うしおととら」第三十四章(21巻)では西の国鎌鼬三姉弟が登場するが、これがまたパンク系スタイルで、性格は極めて残忍。 こーゆースプラッタな場面が多いのが「うしおととら」の玉に傷なんだよな。

 かの手塚治虫先生の代表作 「ブラックジャック」 の 「通り魔」 という作品でも、この鎌鼬が扱われている。 ただ、そのつむじ風の原因が社会的というか時事問題的というか、ちょっとすごい。

 江戸時代の妖怪画家、鳥山石燕(1712〜1788)は、鎌鼬の絵に中国の妖怪である「窮奇」(きゅうき)という名前を付けている。 窮奇は虎のような体に翼を持ち、善良な人を襲って悪人には贈り物を捧げるという、とんでもない妖怪らしい。一緒にされると鎌鼬がちょっと可哀想。
 この窮奇の他、やはり善人を襲う 「渾沌」 (こんとん)、頑固で尊大な 「檮こつ」 (とうこつ。漢字が出ない T▽T)、老人や子供を襲う 「とうてつ」 (これも難しい漢字だ −−;) をあわせて四凶といい、殷王朝の伝説上の王である舜は、この四凶を西方の辺境に流罪とし、西方からやってくる魑魅魍魎を防いだという。流罪はともかく、こういうメンバーで本当に守りになったのか!?

 右の写真は、食玩ものパイオニアのチョコQシリーズのイタチ。 イタチはかわいいのに、どうして恐ろしげな妖怪と結びついたんでしょうね。 かわいいとは言っても、実際の自然では精悍な顔ですばやく動いたりするのでしょうな。
 ちなみに 「鎌鼬」 は俳句では冬の季語だそうな。ん〜、身を切るような寒さ、なんて言葉もあるから、案外そちらのイメージなのかもしれない。
 どうでもいいけど、現在使用中のIME2000、いつまでも時々「釜井たち」と変換してくれる……(爆)