人 魚

 人魚といえば、アンデルセンの「人魚姫」に代表される、お伽話にでてくるような上半身が美女のイメージがある。しかし、このフィギュアの人魚は醜い。 人間というよりは、動物的だ。
 なぜか日本に伝わる人魚はこうしたタイプで、ヨーロッパの人魚は美女という大きな違いがある。 どうせならヨーロッパバージョンも欲しかったけど、そいつぁ下手すると18禁フィギュアになるのかしらん?(爆)
 このフィギュアは波を表現した水色のクリア素材がとってもグッド。それに 「仲間」 が横に顔を出しているのも面白い。

 日本では時々TVなどで紹介されるように、お寺などに人魚のミイラが伝わっている。また長崎の出島にあったオランダ商館の館長が、1824年に持ち帰ったミイラがオランダの国立ライデン民族博物館に現存しているそうな。こうしたミイラの多くは、猿と魚をくっつけた合成品であることがX線検査などで分かっている (例えば特命リサーチ200X・1998年4月26日放送など)。
 日本の人魚のイメージが醜いのは、まず最初にこのミイラのイメージがあるからではないかと思っていたが……このフィギュアを見ると、ミイラだから醜いというわけでもなさそう?

チョコエッグのジュゴン。
う〜ん、人魚には見えん……。

 人魚の正体はジュゴンマナティなどの海牛類だとよく言われるが、どうも人魚のイメージと結びつかない。ジュゴンが水面に顔を出して子供を抱いたり授乳したりする姿がもとになったのではないか、と言われているが……。
 手塚治虫の初期の作品 「魔法屋敷」 では、 「テナントという人の描いた人魚」 という絵が紹介されていて、たしかにジュゴンっぽい顔をしている。伝説の中で美女になっていく前は、ヨーロッパの人魚も案外動物っぽい姿だったのかも知れない。

 フィクションの世界では、小松左京のショートショート「人魚姫の昇天」、星野之宣「水のアマゾネス」のような作品もあるが、SFではいわゆる「半魚人」が登場することが多いようだ。半魚人と人魚とどう違うんだ、というとよく分からないが、半魚人の中でも上半身と下半身とできっちり別れているのが人魚、と考えていいのかな……? ご存知の方はお教えくださいませ。それから人工的、あるいは自然に進化した姿としての水棲人類が登場するものも多い。星野之宣 「ブルーシティ」や松本零士「機械化人都市」、安部公房「第四寒氷期」などにも、たしかこの手のアイデアが含まれていたと思う。

 人魚といえば、その肉を食べると不死になるという伝説もよく知られている。
 ヨーロッパでもこうした伝説があるのかどうかは分からないが、日本では上半身が人間よりも動物的な姿であることと、その日本に肉を食べる伝説があるということは関係があるような気がする (ヨーロッパの人魚だったら、まるでスプラッターだもんね)。
 若狭の少女が人魚の肉を食べたために不老不死となり、800年生きたという八百比丘尼 (やおびくに) の伝説も有名である。これを扱ったSFや伝奇ものも数多い。
 星野之宣 「月夢」 は、800年の時の流れが物悲しく描かれた秀作。 また手塚治虫 「火の鳥・異形編」 でも八百比丘尼が描かれるが、ただしこれらの作品では人魚の肉ではなく、別の伝説や伏線で不死(?)になったということになっている。
 高橋留美子 「人魚の森」 に登場する人魚は、もともと醜い姿ではあるが、ある条件を満たした少女をかじるとその顔になったり、描かれ方がはっきりしないものの、どうやらちゃんと足のある人間に 「化ける」 ようで、単に醜いだけではない不思議な人魚になっている。
 ここでも人魚の肉を食べて不死になった人物が主人公になっている。しかしこの作品の場合、人魚の肉を食べるということはある非常に大きなリスクを伴い、極めて運の強い者だけが不死になれるという設定になっており、複雑で物悲しいドラマを生み出している。