鉄鼠(てっそ)

 平安時代末期、後継ぎに恵まれなかった白河天皇は、三井寺の頼豪阿闍梨(らいごうあじゃり)に祈祷を命じた。 いかなる恩賞も思いのままという約束を受け、頼豪は百日間の祈祷を行う。 その甲斐あって、無事皇子が誕生した。
 頼豪は褒美として三井寺に戒壇 (僧に戒律を授けることのできる場所) の建立を望んだが、当時勢力の強かった比叡山延暦寺の横やりによって実現しなかった。 これに憤慨した頼豪は寺にこもって断食し、死して祟ることになる。 実際、頼豪の死の翌年に皇子も亡くなってしまったという。
 さらに頼豪の呪いは大鼠と化し、鉄の牙を持つ8万4千匹もの鼠を率いて延暦寺へと襲いかかり、仏像や経典を食い荒らしてしまった。 フィギュアはまさにこのシーンですね。たぶんでかいのが頼豪の化身で、配下の鼠を指揮してるのですな。
 「平家物語」にも伝えられる有名な話だそうですが、私は恥ずかしながら知りませんでした(^^;)。

 「戒壇建立」というのがどれほどの願いなのか私には分からないが、それがかなわないと、命にかえてまで祟るとは凄まじい。

チョコQのハタ
ネズミ。 一匹では
可愛いものだが…

 私見だが、この凄まじさは、そのまま現実の鼠の大群の凄まじさに通じるのではないだろうか。 鼠の大発生は飢饉の一因となり、おそらく日本史をも動かしてきたのだろう。 異常発生するのはハタネズミ (写真右) が多いそうだが、ドブネズミが異常発生してついに街を滅ぼしていく様を描いたのが西村寿行 「滅びの笛」。 かなりえげつない部分も多いけど、天敵や人間たちの 「反攻」 が感動的な名作ですな。
「滅びの笛」はフィクションだが、現実に1950年には宇和島でドブネズミが大発生し、島民は一次離島まで検討したという。
 星野之宣 「宗像教授伝奇考」 の file.11 「鼠浄土」 でも、海を渡ってまで島に襲いかかかる鼠の大群が描かれている。
 しかし、鼠の大群で被害に遭うのはいつも庶民である。 それに対し、この鉄鼠の伝説では鼠が権力の象徴へと襲いかかるわけで、ある意味痛快といえるかもしれない。 その点では、この伝説にも案外庶民的な視点があるのかもしれない。