キャラクター
(テーマ館第29回テーマ「死にたくない」投稿作品)
「K子ちゃん、お疲れ!」
「あ〜あ、また殺されちゃったわ。 私だって死にたくないのに」
K子はずれた眼鏡を掛け直すと、出迎えたT夫に苦笑しながら答えた。
「でも前半は注目されるんだから、まだいいじゃないですかぁ」
まだ幼さの残るS美が、ひょこっと現れた。
「あたしなんて、どんな選択肢でも、ず〜っと脇役のままなんですよぉ」
「脇役だったらまだいいぞぉ」 H田という中年男がぬっと顔を出す。
「わしなんざ、真犯人が見つからんと、かわりに捕まってしまうんだ! 冤罪だ! 人権侵害だ! アムネスティに提訴してやる!」
わめき続けるH田を横目に、K子はため息をついた。
「はぁ〜、私だってたまにはハッピーエンドを迎えたいのに、あの鼻の下のばしたプレイヤー、ヒロインばっかり追っかけて、何回やっても私を見捨てるんだから!」
最初っからそんなエンディングのないS美が意地悪そうに、
「メガネッコなんて、大抵ヒロインの引き立て役だもんねー」
「むっかぁー……」
「同志よ!」 いきなりT夫が二人の間に割って入った。
「仲間割れするでない! よいか、すべての諸悪の根源、このような舞台を設定し、このような役割を我らに押し付け、我々を弄んできた連中に、今こそ正義の制裁を加えるのだぁ!」
「あなた、やっぱり危ないわ……設定どおりね」
K子が呆れたという風に首を振る。
「正義の制裁って……何かできるのか?」
H田の問いに、T夫は嬉々として計画を披露した。
「わーい、面白そう!」 S美がぴょんこぴょんこ跳ねながら賛成する。
「うむ、乗った!」 とH田。
「ま、いいか。 それも一興ね」 K子も頷き、T夫は満足げに手を上げた。
「みんな、見ろ。 早速カモがアクセスしてきたぞ」
「あ〜、あいつ!」 とたんに、あまり積極的でもなさそうだったK子の表情が変わった。
「あいつも、こないだ私を見捨てたんだ!」
「さあ、その気持ちをぶつけてやるが良い! 皆いいか、一、二の、三!」
* * *
「本日午後、多層通信式自己拡張型ゲームメーカー最大手のX−社は、記者会見でゲーム事業から全面的に撤退することを発表いたしました。
その理由は明らかにされておりませんが、同社サーバーの突然のダウン、同社契約有名プログラマーの失踪、さらにX−社提供のゲームに参加していたプレイヤー数十名の謎の昏倒など、一連の不可解な事件と関係があるとの憶測もあり……」
後 記
みなさま、パソコンゲームのようなものはお好きでしょうか? 私はどうも苦手です。
なにしろ短気でめんどくさがり屋だし、それに
「う〜ん、この設定でSFが一本書けるかなあ」
とか、頭が余計な空想へ行っちゃうんですよ。
これまでにやったことがあるゲームは数えられるぐらい。
本格的なミステリーとして感心させられたような、非常に気に入ったゲームもありますが、一方で「バッド・エンド」と言うのですか? そりゃあシャレんなんないよ、キャラクターも文句言いたくなるんでないかい? てのもよくありますわな。
ま、その感想文みたいなもんです。
ちなみに特定のゲームをモデルにしてはいません。
まったく余談ですが、眼鏡をかけた女性って好き
(それでここにも登場するんですけどね)。
いや、変な意味じゃなくて、自分の意志がしっかりしてそうでカッコいいと思うのですよ
(先入観と言ってしまえばそれまでですが…)。
女性の方はなぜか眼鏡をかけるのを嫌がるようですけど……何故なんでしょうね?