集塵ペット
年末恒例と言えばいろいろ思い浮かぶが、大掃除も、その一つだろう。
ボクの下宿部屋はやたら埃っぽいので、掃除してもすぐにほこりが積もってしまう。
だから、なかなか掃除に身が入らない。 まあ、人は散らかしてるから埃っぽくなるんだ、などと言うが、これではニワトリが先か卵が先か、だ。
そんなわけで、L博士の研究室に浮かんでいる風変わりな風船が、実はほこりを集める道具だと聞いたとき、ボクの興味はその風船に集中した。
「 ほら、たとえばテレビなんかは、静電気のせいですぐにほこりをかぶるだろう?」
L博士は浮かんだ風船をつつきながら説明してくれた。
「 それと同じ原理で、こいつは静電気を帯びて部屋中を漂ううちに、室内のほこりを吸い寄せてしまう、という効果を狙ったんだ。
でも室内をこんなものがふらふら漂ってると、うっとうしい。
だから、この風船を動物か何かに可愛らしくデザインして、いわば『集塵ペット』なんて名前をつけてものにできないか、と思ったんだがね……」
「 というと何か問題でも?」
「 電気を食い過ぎる。 もちろん他の大容量家電製品を止めて使えばいいんだが、このままではクレームが続出するだろうってことで、ストップさ
」
「 他の電気製品を止めればいいんですね? じゃあ……
一度ボクん家で試させてくれませんか!?」
L博士はあまり乗り気そうではなかったが、そこを頼み込んで「集塵ペット」を借りることに成功した。
これで今年の大掃除は楽になる。
下宿に帰って夕飯を済ませると、ボクはさっそく「集塵ペット」を試すことにした。
風船のような本体を漂わせ、そこから長い尾のように伸びるコードを、コンセントに差し込んだ。
「 おっと、こいつを忘れちゃあ……」
エアコンのリモコンを取り出し、オフにする。
テレビ、パソコン、電気ポット、ひげ剃りの充電器
…… 一通りチェックしてから、「集塵ペット」のスイッチを入れた。
バチッ!
かすかな火花が散って、部屋が真っ暗になった。
「 しまった…ブレーカーが落ちたかな? はて、あと何が…ああ、もしかして冷蔵庫? それともこんな安下宿では、そもそも容量が少なすぎるのかな……」
ぶつぶつ言いながら暗闇の中で踏み出したとたん、コタツの足を引っかけた。
ああ、こいつも切り忘れてたっけ…と思う間もなく、コタツの上に乗っていた食器やガラクタが床にぶちまけられる音がした。
「 ちっくしょう! とにかくブレーカーを上げないと
…… その前に懐中電灯だ!」
慎重に上げた足が、今度は床に積み上げた本やソフトの山を引っかける。
ざざーっと雪崩をうって床に散らばり、おろした足の裏で「ペキッ」とプラスチックの割れる音がした。
慌てて足を上げた拍子にふらついてしまい、反対側のカラーボックスにすがりついた。
カラーボックスの上には、プラスチック製の小さな食器棚。
にぎやかな音をまき散らしながら、コップや調味料が宙を舞う。
ズボンを何かが濡らし、灯りがついたときの部屋の有様を想像して、ボクは慄然とした。
床を埋め尽くしたガラクタをかき分けながら、ボクはやっと本棚にたどり着いた。
この本棚の下半分にある引き出しのどれかに、懐中電灯が入ってるはずだ。
手探りで引き出しを見つけると、手をかけて引っ張った。
しかし出てこない。
この引き出しには鍵なんかない。 ちくしょう、中で何かが引っかかってるんだ!
何もかもうまくいかない怒りに我を忘れて、引き出しを思いっきり引っ張った。
次の瞬間、バケツをひっくり返したような本の雨が、ボクの頭を直撃していた。