ライトアップ
(テーマ館第33回テーマ「天使」投稿作品)
夜の都会の上空を、二人の下級天使が飛んでいた。
もっとも、本人がそう仕向けない限り、天使の姿を人間の目が捉えることはない。
「どうだい、この変わり様は」
天使の一人が下界を見下ろしながら言った。
「ちょっと100年ほど居眠りしただけで、大変な変化だ」
「フフフ、あんたが眠ってる間に、見てて退屈しないほど色々あったわよ」
「ちぇっ、起こしてくれよ……それにしても、こんなに明るくちゃあ俺たちが姿を見せても冴えないなあ」
「そうよねえ。 今はどの家にも、私たちの頭にあるような光のわっかが、部屋ごとにぶらさがってるのよ。
そのうち人間たちだって、一人一人の頭上にも光の輪を載せて歩くようになるわよ」
「そうなったら、後は翼と後光ぐらいか……」
「ところがね、人間たちは自分に翼や後光がない代わりに、無生物にやらせちゃったのよね。
ほら」
二人の天使のそばを、ジャンボジェット機が通過していく。
「主の御力でもお借りせぬ限り、一度にあれだけの人数を運べないな」
「それにほら、あの建物、光ってるでしょ? 近頃の人間たちは建物とか橋とかに後光を背負わせて喜んでるらしいわ。
ライトアップとか言うらしいけど」
二人の下級天使は天界へと戻るべく、どんどん上昇していった。
天界への門をくぐる直前、二人はもう一度地球を振り返った。
「何とまあ、自分の国そのものをライトアップしてしまうとはなあ。
こればかりは我が主でもお出来になるかどうか……それにしても、国そのものをライトアップしてどうしようと言うんだ?」
二人の視線の先には、莫大な電力消費によって夜の地球にくっきりと浮かび上がった、日本列島の姿があった。