「隕石もの」SFいろいろ

 1998年、「ディープ・インパクト」「アルマゲドン」と、設定のよく似た映画が同じ年に公開されました。両方観ましたが、私個人としては「ディープ・インパクト」の方がはるかに感動的だったと思っています。
 地球に天体が落下してくるという設定は、様々な小説、映画、アニメなんかに描かれています。降ってくるものも彗星から人工天体まで様々ですが、本来の用語として「隕石」がいちばん代表的だと思いますので、とりあえずこれらを「隕石もの」と総称させていただきます。


 1980年、地質学的な検討を元に、今から6500万年前に巨大隕石が落下したという仮説が発表されました。1990年にユカタン半島のチチュラブ・クレーターが発見されてからは、恐竜絶滅の原因ではないかと脚光を浴びました。
 ただし現在、天体落下はあったにしても、恐竜絶滅の第一原因ではない、という意見の方が有力のようです。
 1994年7月には、シューメーカー・レビー第9彗星の分裂した核が、木星へ次々と衝突するという事件が起こりました。この時のキノコ雲は高さ2000キロにも達し、木星表面に生じた衝突痕は地球サイズだったといいます。もしもこれが、木星ではなく地球に衝突していたら …… ?
 近年特に「隕石もの」が多いのも、こうした現実の話題が影響しているのは間違いないでしょう。


 映画「アルマゲドン」パンフレットに映画ジャーナリストの斉藤守彦氏が記されたところによると、最初の「隕石もの」映画は「世界の終わり(1930年、フランス)だそうです。もっともこの時代は有効な対処法もなく、内容はただ祈るだけだったようです。

 P.ワイリーとE.バーマーのSF小説「地球最期の日」(原題:When worlds collide)は、小学生の頃にジュブナイル向け翻訳で読みました。本稿のために調べ直していて初めて気付いたのですが、1933年と戦前の作品です。なお、1951年には映画化もされているそうです。
 この小説では、向かってきた放浪惑星が地球に衝突してしまい、地球は粉々になってしまいます。数ある「隕石もの」の中でも、もっとも悲劇的な結末。ところが、その新星の衛星が地球の軌道にすっぽりおさまってしまい、しかも地球と同じぐらいのサイズで、大気まであるんですね。そこで脱出できた宇宙船はこの星に着陸します。
 数ある「隕石もの」の中でも、これは運が良いのか悪いのか ……。


 特撮映画「妖星ゴメス」(1962年)は、日本の代表的「隕石もの」映画だそうです(私は観てないんですが…)。この映画では突っ込んでくる天体ではなく、南極に巨大ロケットを設置して、何と地球の方を動かして避けようという……! オリジナリティでは「隕石もの」随一でしょう。
 科学的に可能なのか? その後の影響は? などと考えてしまいますが、斉藤守彦氏によれば「意外に科学考証をしっかりやっている」ということです。また創元SF文庫版「地球最期の日」解説でも、金子隆一氏が絶賛しています。


 私の「隕石もの」SFの原点、それは「宇宙戦艦ヤマト」です。
 第一話、宇宙の彼方から降ってくる遊星爆弾。膨れ上がる爆発の閃光と、かすむように消え去る高層ビル群。
 隕石とは違いますが、やはりこのシーンは日本における「隕石もの」アニメのパイオニアではないでしょうか。
 この「宇宙戦艦ヤマト」が、私をSFに引きずり込む一つのきっかけとなりました(歳がばれるな…)。
 このヤマトが後に劇場公開映画「さらば宇宙戦艦ヤマト・愛の戦士たち」でアニメ史上に残る感動的な最期を迎えたにもかかわらず、やがてゾンビのように何度も復活しては、単純な「勧善懲悪的」闘いを繰り広げていったことは、残念でなりません。
 (「愛の戦士たち」にしても、「特攻」というラストに、第二次大戦の亡霊を見たような寒気を覚えた、という意見も見逃してはならないでしょう)


 もう一つ印象に残っているのは、ニューヨークのど真ん中に、でかいクレーターが開いている絵。「メテオ」(1979年、アメリカ)が日本で公開されたときの新聞広告です。
 この映画は、私が見た中では初めての「現実的な」隕石ものでした。ここでは、米ソそれぞれが争いながらも〈ハーキュリーズ〉〈ピョートル大帝〉という衛星から核ミサイルを発射して防ごうとします。冷戦時代にあって非常にリアリティがあり、しかも当時は全く見込みの無かった米ソ協調を夢見させてくれる、いい映画だったと思います。


 日本の作品をもう一つぐらい挙げておきましょう。「ガンダム」や「エヴァ」などを挙げる人が多いんじゃないかと思いますが、そちらは見てません。すみません(^^;)。
 星野之宣「ブルーホール」。将来の危機ではなく、過去に現実に起こった衝突を題材にしたマンガです。つまり6500万年前の巨大隕石落下です。
 現代の海底にある穴が実は白亜紀に通じており、これを利用して現代の地球環境を何とかしようとしたり、そこへ巨大隕石の落下も絡んでくるという壮大なストーリーです。続編「ブルーワールド」も含め、今も手に入る名作です。分類としては「恐竜もの」だと思いますが、過去の隕石落下に注目した「隕石もの」として挙げてみました。
 余談ですが、日本SFには日本人を無理矢理にでも登場させるものが多い中、日本人が一人も登場しない点でも自然で好感の持てる作品です。


 「アステロイド」(1997年、アメリカ)という映画では、彗星が蹴散らした小惑星が地球へと向かってきます。そこで、戦闘機からレーザーを発射して小惑星を粉砕しようとします。
 大気圏内からレーザーを発射して宇宙空間まで有効に届くんだろうか、と思うのですが、例のSDI構想で、人工衛星を打ち落とすために戦闘機から発射するレーザー兵器が、現実に研究されていたようです。
 ともかくこのレーザーで小惑星の粉砕に成功。折しも独立記念日で、アメリカ中がわき上がります。
 しかし。うかれる登場人物たちの前に、砕けた小惑星の破片が降ってくる、という報告がもたらされます。
 んなもん砕いたら、破片が降ってくるのは当たり前じゃろうが!!
 登場人物たちの多くが、破片が生じたという可能性を、実際に発見するまで考えていなかったことに、私は唖然としてしまいました。
 彼らは「小惑星は蒸発したはず」とでも考えたのでしょうか。あるいは、「大気圏で燃え尽きる程度の破片に砕けた」と思ったのでしょうか。それなら、本当にそうなのか確認するまでは気が抜けないと思うのですが。
 そしてひときわ大きな破片が、テキサス州ダラスに落ちます。タワーをなぎ倒し、市街地の真ん中へ火の玉が落っこちて、わあわあ人が逃げまどう中を炎が広がっていきます。
 うーん、クレーターが生じるほどの爆発だったら、そんな風に人が逃げまどうひまもなく、一瞬に吹き飛ぶと思うのですが…。
 そして極めつけ。自宅の半地下室に避難していると、爆発の炎と衝撃で家の地上部は完全に吹き飛ばされます。ところが何と! 地下室の天井部分まで吹き飛ばされてるのに、人々は火傷もせずにとりあえずは無傷で地上へ這い出してくるのです。

 唐突ですが、この映画を見て「インディペンデンス・デイ」を思い出しました。
 「インディペンデンス・デイ」でも、爆発の炎から人々が走って逃げていきます。何てゆっくりした炎なんだろう!
 ど〜もアメリカのSF映画って、人物アクションを盛り上げるために、自然現象を甘く見すぎているものが多いように思います。


 そして「ディープ・インパクト」「アルマゲドン」

 「アルマゲドン」では、最初に幾つもの小さな隕石がまずスペースシャトルをぶち抜き、続いてニューヨークに降り注ぎます。
 たしかに衝撃的な特撮ですが、何だかミサイルか爆弾みたいで、隕石としては迫力不足。そうそう、作品中でもこれをミサイルか何かと思って「サダム・フセインだ!」なんて叫ぶシーンがあり、笑ってしまいました(いや、アメリカ人のこうした意識って、本当は笑ってられないんだけど)。
 そして、より巨大な小惑星の衝突まで、あと3週間。そこで石油掘削の技師を選び出して送り込み、小惑星に穴を掘って核爆弾を落とし込んで、内部から爆破しようというわけです。
 ロシアの宇宙ステーションが出てくるのですが、何となく小馬鹿にしている雰囲気があるし、バラバラになった2チームが絶妙のタイミングで再会するし、危機回避は不自然なくらいギリギリの瞬間までかかって結局助かるし、主人公は最後の土壇場でお約束の行動をとるし …… アメリカ映画のお約束パターンをすべて踏襲したストーリーです。
 あ、まだ観てない方、申し訳ありません。あくまで私見ですので。
 ただ一つだけ、チームが出発するときの大統領演説は感動しました。


 「ディープ・インパクト」では、新発見の彗星が地球に向かってくることが判明します。
 この映画は映像的な見どころも沢山あります。
 例えば、ニューヨークから脱出するヘリコプターの大編隊。大西洋への小彗星落下の瞬間。吹き飛ばされる雲まできちんと描かれています。そして、ニューヨークに襲いかかる高さ900メートルの大津波。ミサイルもどきの小さな隕石ではない迫力に、見入ってしましました。
 こちらの映画では、彗星を阻止するためのチームに、ロシア人宇宙飛行士が最初から対等なメンバーとして加わります。また彼らの乗り組む宇宙船メサイア号は、スペースシャトルをベースにいろいろくっつけたようなスタイル。確かにこんな形になるんじゃないか、と納得しました。
 しかし、この映画の真価はそれだけではありません。劇場で観た映画としては約20年ぶりの、涙を抑えるのに苦労した映画でした。
 メサイア号の宇宙飛行士たちと家族との会話。脱出ヘリに乗るためのくじ引きに苦悩する人々。地下都市に避難すべきか悩む青年。そして若者に子供を託す夫婦。いかにして衝突が阻止されたかは、観ていない方のために置いとくとして、ラストの大統領演説と人々の歓呼。
 「アルマゲドン」は要するにヒーローもの、「選ばれた個人」の冒険活劇です。しかし「ディープ・インパクト」は、非常時にあってもそれなりに機能して努力を続ける組織と、特別なヒーローではない、普通の人々の物語なのです。


 1996年5月、「1996JA1」と名付けられた直径500メートルの小惑星が、地球からわずか45万キロを通過しました。ところが、その最接近5日前まで、誰もこの小惑星に気付いていなかったのだそうです。
 1998年には、日本を含む16ヶ国の国際宇宙ステーション建設がスタートしました。子供の頃からSFに親しんできた身としては、やっと、ついに始まったか、という感動と、しかもそれが東西の壁を越えて実現したことの嬉しさでいっぱいです。
 しかし私が小さい頃は、1999年にはもっともっと宇宙に進出していると思ってたんですけどね。また「1996JA1」の例のように、現実的な意味でもまだまだ不十分でしょう。なのに、国際宇宙ステーション計画ですら、各国の台所事情でなかなか難しい面もあるようです。
 だったら、毎月毎日むしり取られる税金も、わけのわからん事業に浪費されるぐらいなら、ささやかながら宇宙開発の足しにでもしてもらった方が、少しは納税のし甲斐もあるんだけどな……などと思う今日この頃です。