おまけ:「日本沈没」予言って?


 エドガー・ケーシー(Edgar Cayce;1877〜1945)がおこなったとされる 「1998年日本沈没」 予言はかつて 「その手の本」 にはたいてい触れられていたが、現実に1998年も過ぎ去った今、はたしてどのように評価されているのだろうか。
 かのノストラダムス同様、いまさらどうこう言ってもあまり意味はないだろうが、これは単純な 「沈没」 ではなく経済的な衰亡を意味しているのだ、といった本もいくつかあり、これはこれで今振り返ってみても面白いのではないだろうか。
 そうした本の中で、かつて私が読んだ 「1998年日本崩壊 エドガー・ケーシーの大予告」(五島勉著; 1990年,青春出版社……あの「ノストラダムスの大予言」と同じ著者ですネ) を中心に紹介してみたい。


 同書によれば、エドガー・ケーシーは 「アメリカ最大の予言者」「南部の奇蹟」「バージニアビーチの賢人」「アメリカの聖者」 などとも呼ばれたという。 アメリカ南部の出身で、南部の発音ではCayceはケースとも言う。
 10代前半の頃から(別の資料では成人してから)不思議な能力が備わり、難病の病人の前に立っただけで、病気の原因や新しい治療法が自然と口から出たそうな。 またトランス状態で約1万5000件の透視や予言をしゃべり、95%以上の的中率(!)を挙げたといわれる。 「在職中に死ぬ二人目のアメリカ大統領が現れる」 とか、第二次世界大戦、中東紛争、共産主義の崩壊をも予言したという。 彼の予言は妻や助手による膨大な量の速記として保存されており、ケーシー・リーディングと呼ばれる。 このリーディングは全体の半分しか公開されておらず、残り半分は未整理のままだという。

 ケーシーがなぜ未来を見通せたかというと、神だの異星人だのお約束の諸説を挙げるものも多いが、同書では“アカシャ”という概念を取り上げている。
 アカシャ(AKASHIA)は、インド哲学でいう四大元素、地・水・火・風に続く第5の元素で、神秘学では地球を完全に取り囲んでいるとされる媒質。 これは、それ自体が時間発生以来のすべての物事を記録している。 ケーシーをはじめ予言者は自分の精神をそのアカシック・レコードのところに到達させ、記録された過去や未来を“読み取って”(=リーディング)しゃべった、というのだ。 過去はともかく未来も記録されてるというのも不思議だが……記録というより予定表のようなものだろうか?

 さて、いよいよ 「1998年日本沈没」 予言である。 これは1934年1月19日に行われた。 リーディングの行われた場所はオハイオ州デイトンの彼の別荘で、彼の妻と助手が交互にリード役となった。 質問は1950年代以降の世界の様子で、これに対し彼は、アトランティスの浮上、アメリカ西海岸の破壊(ロスやシスコの地震?)、地軸が変わるほどの大異変(ポールシフト?)などをしゃべった。 その後間があいて、皆が今日は終わりだと思っていると、突然寝返りを打ち、機械的な声で日本沈没予言をしゃべったという。 この後で、これらのことは1958年から1998年までの間に起こるだろう、と期限を切った。 つまり、1998年に日本が沈没するというのではなく、1998年までに、ということらしい。
 そしてさらに、「この1998年頃の時代は“his light”がもう一度雲の間から現れる時代と呼ばれる」 と続けられた。 ケーシー財団はこの速記を復元した際、大文字で“His Light”と記録した。 これは“神の光”“主の栄光”といった宗教的意味となるそうな。
 日本沈没予言の原文は以下の通り。

  The greater portion of Japan must go into the sea

 ここで五島氏は、“must”という単語に注目する。 「〜するであろう」 というのではなく、「〜せねばならない」 というのは予言とは少々ニュアンスの異なる意図をもった言葉ではないか、という。
 また“portion”は分け前、相続といった意味もある。 これが海へ消える、すなわち、日本の経済的衰亡と捉えられる。 この2点から、五島氏はこれは単純に日本が沈没するという予言ではなく、1998年までに日本を経済的に衰亡させねばならない、という一種の呪いだ、というのだ。
 しかしまあ、“must”は 「〜に違いない」 という意味の可能性もあると思うし、“portion”も単独だとそういう意味があるとしても、構文的には単純に 「大部分」 といった意味のような気もするのだが……。 英語に詳しい方がおられましたら、この辺り是非ともおうかがいしたいものです。もっとも、この前後のやり取りも英語でみないと分からないだろうなあ……。


 さて、ここからは予言を超えた五島氏の大胆な仮説である。 本当かどうかはともかく、なかなか大胆で面白いので、よろしければお付き合い願いたい。
 この“must”に込められた、五島氏言うところの 「呪い」 は、むろんケーシー個人の感情などではない。 ケーシーを含む非常に大きな集合無意識の願望の表れだ、というのである。
 では呪いの主は誰か? 何と、ケーシーにこの言葉をしゃべらせたのはWASP (アングロサクソン系白人プロテスタント教徒の略。アメリカの支配階級をなし、エリートの条件といわれる。ケネディはアイルランド系カトリックで、WASP以外の初の大統領) の集合無意識だ、と見る。 つまり、「日本を衰えさせたいアメリカの深層願望」、突き詰めれば 「アメリカ建国以来の白人エリート指導層の集合無意識」 というわけである。
 そしてこの集合無意識は、白人エリートとキリスト教という大きな共通項でもってヨーロッパへもつながる。 共通する白人国家の無意識は、米ソデタント、EC統合などを通じ、急接近していく。 そして、ついには “All Whitemens Union” ……全白人の大連合という大胆な構想へつながる。 具体的な組織というわけではないだろうが、強烈な連帯意識に支えられた国家群、というわけである。
 同日のケーシー予言の中には 「アトランティスの浮上」 という、何ものかはっきりしないのもあるが、実はこうして結ばれた、大西洋 (Atlantic) を挟んだ強力な白人国家群、これこそがその正体ではないか? 欧米人はアトランティスへの思い入れが強いらしく、それは白人種のみが栄えた理想郷への回帰願望だという。 かくて、唯一の非白人大国である日本への反発から浮上した 「アトランティス」 により、日本は経済的衰亡へ追いつめられるというのだ。
 そうして本書のストーリーはノストラダムス予言をも巻き込み、1998年に日本と白人連合が衝突して双方痛み分け、1999年にノストラダムスの予言した何かが降って来、新しい世界が始まる……その後の新しい新世界を白人種は支配したい。 で、ライバル日本の力を1998年までに削ぎ落としたい。 だから、「日本は沈まなければならない」 という言葉となった……。 これが日本沈没予言の五島氏流の解釈である。


 多少おどけて言うならば、すでに書いているように日本はその頃から経済的にずっこけてしまい、当たったといえるのかもしれない。 でもやっぱり上記の英語の原文からそこまで拡大解釈できるものなのかなあ……という気はする。 1990年というまだバブルの余韻が残る中でこうした点に注目したのは評価しうるかも知れないのだが。
 ま、それに 「予言」 はともかく 「呪い」 という解釈もどうだかなあ。 確かに90年頃だったら経済的に生意気な日本を叩き潰したいって気持ちはあったかもしれないが、軽々しく頷いて良い解釈かどうかは疑問が残る。
 同じ著者の 「ノストラダムスの大予言」 シリーズに比べると社会批判は少ない感じだが、それまでのバブルに踊らされた金満欲ボケニッポンへの警鐘ととらえることはできるだろう。 真偽の程はともかく白人国家を悪モノにしてしまうのもちょっと心配なところだが、ニッポンへの警鐘と見るならば、かつて流行った、単純に外国軍を破るだけが目的のシミュレーション戦記ものよりはましかも知れない。
 2002年現在、今も (経済的には) 日本は沈没しっぱなしである。 バブルの様々な後遺症を抱えて。 日本沈没という 「呪い」 が存在したとすれば、日本人自身が自らにかけた 「カネ」 という呪縛こそがその正体ではないだろうか。 はたして、日本人はその呪縛を解いて再浮上できるのだろうか……。


 さて現在、ケーシー研究家たちはどう考えているのだろう。 上記のようにケーシー予言は高い的中率を誇っていたといわれるそうだが、果たして今現在、その評価はどうなっているのだろうか。

2002.5.21