1.
時の歩みは三重である。
未来はためらいつつ近づき、
現在は矢のように速く飛び去り、
過去は永久に静かにたたずんでいる。
二千年ぐらい前の人物だろうか、シラーという人物の残した言葉だそうだ。時に対する人類の想いはいつも変わらず、古き言葉であっても人々の心に感銘を与えていく。
ホリタにとって、静かにたたずんでいる 「過去」
のイメージは、常に父親の姿をしていた。
平凡な技術者で、後方勤務で兵役を終えた後、辺境の開発公社に勤めた父。
しかし、ホリタがまだ幼いうちに病死してしまった父。
− 医療関係者もまた大勢が前線に駆り出され、当時から医療水準が低下していたことが一因ではないか、と現在のホリタは考えている……。
その父の姿は、ホリタの記憶の中ではいつも薄明の中でじっとたたずんでいた。
今は亡き父の記憶は、ホリタにとっては 「過去」
を象徴するイメージだった。
その父が死んだ年齢に自分も近づいている。さすがに因縁めいたものを感じたりするほどホリタは迷信深いわけではなかったが、
「永久に静かにたたずんでいる」 はずの過去が近づいて来ているような、不思議な気持ちになるのだった。
宇宙暦798年4月。
ラムビスは地軸の傾きが小さく、本来季節の差はあまりない。だが、首都ハイネセンで春に咲く色とりどりの花が、この地でも4月に咲くよう人為的にコントロールされている。たとえ人為的であっても、木々に黄色やピンクの花が咲き誇る様は充分に美しく、人々の心を高揚させるのだった。
そんなのどかな気候の中でなぜ過去の記憶にとらわれたのか、ホリタにはよく分かっていた。
リニアモーターのステーション前広場で、ホリタは車を止めて降り立った。
あたりを見渡すと、金髪の美少女がすぐ目に入った。少女はホリタに向かって手を振りつつ、軽やかに駆け寄ってくる。
彼女 − ミリアム・ラスキーとは、父娘といっても不思議ではない年齢差だ。そのことが、ホリタに自分の父を連想させるきっかけとなるのだった。
「やあ、ミリィ。誕生日おめでとう」
そう言ってホリタが小さな箱を差し出すと、彼女は飛び上がらんばかりに喜んで箱を受け取った。
「さて、お父さんは?」
「父は先に啄木鳥亭に行ってるそうです」
「オーケイ、では参りましょうか」
ホリタがおどけて助手席のドアを開けると、ミリィはぴょこんと飛び乗った。
啄木鳥亭は郊外の庶民的で格式ばらないレストランだ。車を幹道まで出すと、ホリタは啄木鳥亭までの道をインプットし、運転を自動システムに委ねた。
だが、啄木鳥亭で待っている父というのは、彼女の本当の父親ではない。
彼女の父親、ビンセント・ラスキー准将は、ホリタの士官学校同期だった。だが3年前戦死し、戦災孤児となったミリアムは
「軍人子女福祉戦時特例法」、 いわゆるトラバース法で新たな軍人の養女となったのだった。
ミリアムの父を奪った戦いは、宇宙暦795年の第3次ティアマト会戦であった。