オアシスを求めて − TVドラマによる本格SF −
西暦2087年。 日本は中国につぎ、世界で9番目のスペースコロニー
《勝利号》 を完成させつつあった。地球環境が汚染され、人々の健康も蝕まれつつあったこの時代、スペース・コロニーは人類の未来に対する最後の希望であった。
技術者の織部路音は 《勝利号》 最終チェックの折、《勝利号》
を管制する人工頭脳R7のデータに食い違いを発見する。
同じ頃、500万もの人間が居住するアメリカのスペース・コロニー
《アイランド・ワン》 が失踪するという大事件が発生した。
時代はあくまでも機械を信用し、機械に従って未来へと突き進むことを要求していた。
だが、はたして人工頭脳は信用できるのか? 人工頭脳を疑う織部は現場を外され、送り返された地球で、曽祖父から関係あるかもしれない過去のプロジェクトを聞かされる。
そして織部と同じ疑問を抱いた友人が月で殺された。
月へと向かった織部が見たものは、人類を影から支配しようとする驚くべき存在だった……。
皆さま、このドラマをご存知でしたでしょうか? かのNHKが1985年に放送した単発ドラマでしたが、(小説でも映画でもなく)TVドラマという媒体でもちゃんとSFを描けるんだ、という点で、当時鮮烈な記憶に残った作品でした。
1985年当時、何気なくTVを観ていると予想外に面白い舞台設定に何となくメモ書きを始め、結局ストーリーを書きとめるほどに引き込まれてしまいました。
ところが。何ともオオボケなことに、そのタイトルを記録するのを忘れてしまったんですね。それ以来長い間、NHKで面白いSFドラマがあったんだけど何というタイトルだったのか、ずっと心に引っ掛かってました。
それが解けたのは2002年1月、書庫の彷徨人様HPの掲示板でした。
そんなわけで、せっかくだから当時頑張ってメモッたストーリーを元に取り上げてみました。
もちろん今から振り返ると突っ込みたくなるところは多いし、ストーリーももうちょっとひねりがほしいな、という点があるのは否めない。
《勝利号》 というネーミングもいささか安易かなあ……。
ラスト、織部の秘策によって秘密が暴かれるその方法も、後から落ち着いて考えると敵さんもそこまで間抜けじゃないだろう、という気もします。
でも実際に観ていると、「おお、やった!」と喝采を送ってしまったもんです。
しかしそれでも、スペースコロニーという当時としては(今も?)あまり詳しくは知られていない大舞台を正面から取り上げた点は大きな功績ではないでしょうか。
ところでこのスペースコロニーについて、ガンダムの影響か? なんていう感想も見かけましたが、それは失礼というものでしょう! ガンダムというアニメファン以外は認知度の低いものを持ち出してこずとも、スペースコロニーは現実的な可能性のあるものとして、すでに様々に議論されています。
十年以上前、スペースコロニーは現在の技術でも可能であり、各国がGNPの1%も出せば実現できる、と何かの本で読んだことがありました。
かつて日本は軍事費のGNP1%枠でもめたことがありますが、同じ1%ならよほど良い使い道だと思うのですが……。
そしてまた、環境汚染、機械による支配、バイオテクノロジーの脅威なども本作品のテーマの一つですが、これらも今現在、あるいは近い将来に我々が直面する問題であることは間違いないでしょう。
さらには、このドラマの日本はすさまじい高失業率にあえいでいます。
実現可能なスペースコロニー。 すでに危機的な環境破壊。
逼塞した日本経済。 この作品は2087年という遠い未来ではなく、まさしくすぐそこにある明日の世界ではないでしょうか? 1985年という発表年は、日本経済がバカげたバブルの絶頂期から翳りを見せ始める前後ぐらいだったかな? とすれば、未来に対する不安を時代背景として背負った作品であり、2087年を待たずしてその不安は当たったということなのかもしれません。
そしてやはり、NHKがここまで真正面にSFを取り上げた点で、私にとっては特筆に価すべき一作です。
「オアシスを求めて」 詳細ストーリー
ネタばれになっている部分もありますので、ご了承の上お読みください。
2002.11.11