「オアシスを求めて」 詳細ストーリー
ネタばれになっている部分もありますので、ご了承の上お読みください。
西暦2087年。 日本は中国につぎ、世界で9番目のスペースコロニー
《勝利号》 を完成させつつあった。
この時代、日本人の平均寿命は120歳にも達し、50年前からほとんどの病気が完治するようになっていたにもかかわらず、人々の健康は蝕まれつつあった。
環境汚染、食品汚染、そして薬そのものの副作用のためであり、もはや地球そのものが汚染され尽くして居住できなくなるのも時間の問題と思われていた。
実は、各国がスペースコロニー建設を急ぎ始めたのも、こうした事情によるものだった。
《勝利号》 は直径2キロメートル、全長10キロメートル、100万人が居住可能で、1ヶ月で地球を公転するようになっていた。
暗くよどんだ東京ではビルの壁面に映し出される巨大スクリーンのみが明るく輝き、
《勝利号》 の汚染されていない環境、完全就職などを喧伝している。
その下で 《勝利号》 への移民権を得ようとする人々が長い列をなしていた。
この時代、失業率は20%に達していたのだ。
技術者の織部路音は 《勝利号》 最終チェックに向かう途中、連絡艇の窓から虹のようなかすかな光を垣間見る。
だが、他に見た者は誰もいなかった。
最終チェックの過程で、織部は自分で測った空気流出量の測定値が、人工頭脳R7のデータと食い違うことを発見した。
R7は地球に中枢を持つ巨大コンピュータで、
《勝利号》 をも管理している。 非常に優秀で、絶対に間違わないと信じられているものだ。
同じ頃、アメリカのスペース・コロニー 《アイランド・ワン》
がレーダーから消えた、と大騒ぎになっていた。
《アイランド・ワン》 は直径10キロ、全長30キロで500万人が居住する大都市だ。そのうち
《アイランド・ワン》 は米政府が極秘に改造して移動させたのだ、という噂が流れ始めた。
それがやがて、実は火星開発のため火星に向かったのだ、という噂にまで発展する。
織部はデータの食い違いから人工頭脳R7への疑問を口にするが、上司の黒川主任は
《アイランド・ワン》 の噂を持ち出した。人類はもはや地球には住めない。コロニー計画ももう後には引けない。
今は、機械を信じて未来へと突き進むべきだ……。
ところが、連絡艇の一隻がたまたま驚くべきものを発見する。
それは何と、《アイランド・ワン》 の破片だった。
この前自分が連絡艇から見た虹は、《アイランド・ワン》
が崩壊した時に噴き出した水蒸気によるものに違いない。
《勝利号》 の空気流出量についての相違も放っておくわけにはいかない……そう考えた織部は独自に調べ始める。
ところが脱出ハッチの一つから外へ出てみると、そこでは勝手に非常用放出弁が開き、氷の結晶が宙を舞っていた。
驚いて報告する織部だったが、上層部は彼自身が弁を開けたのだ、と断定し、彼を強制的に地球に送り返してしまった。
地球には、織部路音の曽祖父で、今年123歳になる織部高志がいる。
だが、未来のためには機械への服従が必要と主張する
《委員会》 と子供の教育について対立し、《委員会》
によって軟禁状態におかれていた。
地球に戻った織部は、国家的プロジェクトである
《勝利号》 建設計画のメンバーであることを盾に、《委員会》
から曽祖父の身柄を取り戻すことに成功する。
さらに織部は、R7の操作に携わっているという君塚と会う。君塚が言うには、
《勝利号》 建設はR7全能力の100分の1かそれ以下だろう。おそらくR7の管轄は政治、経済、軍事にまで及んでおり、やがては政策決定のすべてをR7が行なうようになるだろう、というのだ。
機械による支配への疑問を口にする織部に、君塚はR8を知ってるか、と尋ねた。織部は説明を求めるが、君塚は
「R8は未来だ」 とだけ言い残していった。
その頃、織部の同僚で友人の羽賀は、織部がハッチから出て行った時、R7が何も警報を出さなかったことを思い出していた。
たとえ弁を開けたのが織部自身であったとしても、弁が開けば警報がならねばならないはずである。
そこで羽賀もまたR7について調べる決心をする。
ところが、間もなく彼は月の立ち入り禁止区域で死体となって発見された。
事件を黒川主任から通話で聞いたとき、織部はその場にいた曽祖父に事情を説明した。
すると曽祖父は、関係ないとは思うがR7とかR8という呼び方は聞いたことがある、と語り始めた。
1990年代、R計画と呼ばれるものが開始された。
これは遺伝子操作によって優れた新人類を生み出そうという計画で、生物学者だった曽祖父はR1からR3ステージまで関与した。
しかし研究の行く末に恐怖を感じた曽祖父は、研究室を破壊して打ち切ってしまたという。その後研究が続けられたかどうかは分からないが、もしも続けられていれば、今頃R8ぐらいのステージになっているのではないか……。
これを聞いた織部は、羽賀が殺された月へと行く決心をした。
月の地下都市の一角には、地表までも含めた非常に大きな立ち入り禁止区域が存在し、羽賀はそこへ通じるトンネルの途中で射殺されていた。
そのトンネルの奥に何があるのかは、誰も知らない。
現場に立った織部は、警備員を振り切ってついにトンネルの奥へと駆け出した。
途中で自動銃撃装置に狙われるも、何とか暗く長いトンネルの奥へと辿り着く。
と、そこにはいやに整備された区域があり、ドアには
「R8」 と記されていた。
恐る恐るドアを開けた織部の目に映ったのは、彼とそっくりな男の姿だった。
男は、自分は織部の祖父の細胞から生まれた、と語った。
そこには他にも数名の男女がいて、彼らがこの月からR7を操作しており、地球の心臓部は実は中継点にすぎないという。
R8とは彼ら自身、クローンと遺伝子操作によって生まれた人間たちだったのだ。
《勝利号》 でのR7の間違いを訴える織部に対し、男はR7は絶対に間違わないと主張する。
「ならばその保障をみせてくれ」
「R7が管理している、それが保障だ。 そしてそのR7は、より優れた新人類である我々が操作している」
「だが 《アイランド・ワン》 は崩壊し、500万人の人間が犠牲になった。
500万という数が分かるか?」
「合理的に考えれば、500万という数は全人類からみれば取るに足らない数だ。
人類はもっと合理的にならねばならない」
「それでは機械と同じだ!」
「もはやR7は人間の手では操作されてはいない。
これからは我々が人類を操作する。 人類はただ見ているだけでいい……」
最後に男は、君は私の一部だ、だが私は君を消さなくてはならない、と言った。
さあ、そのドアから出ていくがいい。一瞬にして終わる……。
その時、隣の部屋から数名が駆け込んできた。一人が血相を変えて叫ぶ。
「おい、地球のテレビ放送を見てみろ!」
驚いた男がテレビのスイッチを入れる。 と、そこに映ったのは彼自身の後ろ姿だった。
男はゆっくりと振り返り、その時初めて織部の胸ポケットにさしてあるペンが超小型のテレビカメラであることを知った。
全国の大型テレビの下で、人々は異様な沈黙の中、男の顔を見上げていた。
織部の曽祖父もまた、自宅のテレビで彼の息子から生まれたというクローン人間を見つめていた。
今までのことは日本中に放送された、と織部は言った。
R8の存在ももう秘密じゃない。君は私の一部だ。すべては終わったんだ……。
その後この事件によって世界中に混乱があったものの、R7は大幅に修正され、R計画は完全に幕を閉じた。
コロニー管理は一部人間の手でも行なわれることとなり、そして《勝利号》への移住が始められた。
※ 本文章は1985年放送当時に管理人が書きとめた文章を元に入力しました。細かい数字やセリフは一語一句正確ではない部分があるかも知れませんが、ご了承ください。