VISITOR − サターンロケット、21世紀末に大活躍? −
2099年10月9日、モンゴルの大ヌメゲド盆地というところから物語は始まる。
白亜紀末の地層から、アポロ計画で使用された司令船が発掘されたのである。
この時代、どういう経緯かは不明だが、すでに反物質をエネルギー源とする技術が実用化されていた。
L4 (ラグランジュ4) では史上初の有人恒星間宇宙船
《みろく》 が日本の企業によって建造されており、次世代反物質エンジンを搭載していちばん近い恒星まで40年で往復する計画だった。
火星の衛星フォボスには反物質貯蔵施設がある。
しかしここに謎の球形物体が突如出現し、フォボスが消滅してしまった。
さらにはレールガン実験船 《ダビデ》 が 「交戦」
の末に失われるという事件に発展する。
謎の物体は、インド神話の破壊の女神 「カーリー」
と命名された。 反物質にひきつけられるらしいカーリーがついに月軌道にまで達したため、これを迎え撃つべく多国籍宇宙艦隊が出動。
1番艦 《インディペンデンス》、2番艦 《ガガーリン》、3番艦
《長征》 ………(船籍はいわずもがな ^^;)。
だが、カーリーによって史上初の多国籍宇宙艦隊は壊滅する。そして地球最後の大型宇宙船となった
《みろく》 を保有する日本に対して、外圧がかかり始めるんですなあ……。
一方、フォボスの反物質貯蔵施設に関わった人物から
「仇をとってくれ」 と依頼されることになった派遣会社のOL、宇宙科学研究所の変わり者研究者、などが顔を揃えていき、独自のカーリー撃退プランを練り始める……。
* * *
「サターン、やっぱりお前は最高のロケットだぜー!」
といったセリフがとても印象に残ってるので、強引ではありますが本作品もロケッティア・ストーリーの親戚ということで。
でも上の紹介ではサターンがあまり出てきませんよね。
どう出てくるか紹介すると完全なネタばれになっちゃうので、ご了承ください。
ちなみにサターンV型はかのアポロ計画で人類を月面まで送るのに使われた、 「史上最大」 「史上最強」 などと賞賛されるロケット。 先端の司令船部分まで含めた全長は110メートル、これはスペースシャトルをはじめこれまでに作られたロケット類と比べても最大のものです。
「人類の歴史をつくってきた世界遺産や……」 というわけで、2090年代に世界遺産に登録されたようです(^^)
「VISITOR」 − アニメは1998年、翌1999年に小説版。このアニメ、非常に特徴的なのが、人形劇そのまんまのような人物描写。 かの 「サンダーバード」 を、あの質感そのまんまにCGで描いた、と言えば大体ご想像いただけるのではないでしょうか……? フィギュア+アニメで
「フィギュアニメーション」 なんて造語を冠しているようですが……。
ネット検索などでざぁっと見てみると (ストーリーはいいのに)
「これが普通のアニメだったら……」 と嘆く声もあれば、
「見てるうちに慣れた」 といったものまで評価は二分。
ワタクシ的には、やっぱり最後まで違和感ぬぐえなかったなぁ。
映像的に後を継ぐ作品も出なかったようだし、無理があったんじゃないかなぁ……。
小説版 (1999年、メディアワークス) 後書きに監修の立花薫氏が記されているところによると、本作のテーマは
「ミサイル一発撃つにも伝票切ってハンコをもらう、会社員の宇宙戦争」 なんだそうな。 実際、 《みろく》 が戦闘に入るときも朝礼みたいなことをやってみたり、 「発射伝票」 なんぞをやりとりしたりと、笑わせてくれます。
ちなみにこの後書きによると、そもそも本作の企画は 「劇中の登場人物を人形 (フィギュア) と考えて、
『サンダーバード』 のような人形劇をフル3DCGで作ろう!」
というものだったとか。 ありゃりゃ、上でも書いた
「サンダーバード」 って、ご自分から言っちゃってるよ……。
さらには主人公クラスの派遣会社OL柊美佳と望月リラについては、 「柊美佳は 『機動警察パトレイバー』 の香貫花・クランシーで、望月リラが泉野明」
おいおい、そーゆーの関係者がばらしちゃっていいの〜!? そういや彼女らの上司、鮎沢課長って飄々として何考えてるかわからんけど切れ者ってところは後藤隊長とそっくりやんけ……と思ってたら、要するにそういうことやんけ! 何か身もフタもない後書きな感じもしますが、そうゆうことのようです……。
* * *
本作品は人材派遣会社の柊美佳と望月リラ、宇宙科学研究所反物質推進研究室の佐鳥牧人、城山重工係長の伊庭茂樹といった20代〜30代の比較的若い世代が主に活躍しますが、特に小説版では脇役の中高年キャラ
(?) もよく描かれていて、なかなかいい味出してます
(^^;)
主人公たちにカーリー撃退を依頼する福永老人。
「おれが伊庭たちと組んで衛星フォボスに反物質貯蔵施設を造ったときも、おれたち以外、他人は誰も成功するなんてはなっから思っちゃくれなかった。
でも、成功した。
若いってことは、不可能を可能にする力があるんだ。
あの若い連中なら、必ずできる。絶対成功する」
独自のカーリー撃退作戦に理解を示し、協力するスミソニアン宇宙博物館の管理責任者、モモ・ストラットン。
「よろし、協力しましょ。 私でできることやったら、なんでもしましょ。
もちろん、ここだけの話やで。 内緒、内緒。
誰にも言うたらあかん。 私よりずっとお偉いさんは、ぎょうさんいるねん。
そのお偉いさん方、頭かたくてな。 しゃーないわ。
だから、ここだけの話。内緒やで」
ロシア人古生物学者セルゲイ・フョードロフ。
「日本では、企業のプレゼンテーションでカーリー迎撃の方法を決定するとか。
あの国は昔から官民一体がお得意だ。 しかし、私は多様性を損なうシステムを信用しない。
みんなが同じ方向を向いてると、いきなり足元をすくわれることになる」
ストーリーに直接絡む人じゃないけど、名言です。
ところでその企業のプレゼンテーション、いくら百年後でもムチャクチャです。 こんな世の中になってほしくないなぁ……。
一方で、本作は何しろ上記のように 「会社員の宇宙戦争」 がコンセプトなので、現代風の会社組織の不条理もイヤというほど見せつけてくれます。
百年後のカイシャもこんなんだと未来への希望もないな〜、と思ってしまいますがね……。
本作最大のカタキ役は城山重工の松岡取締役。 柊美佳の手柄を横取りし、社の保有する宇宙船 《みろく》
を用いた作戦をプッシュするも、作戦の失敗で、社内の立場が危機的なものとなります。
「地球の危機だと? そんなものはどうでもいい。
おれの野望はどうなるんだ。 今まで上司に媚び、同期の出世頭の足を引っ張り、ただただ昇進一筋だった自分の今までの努力は無になるのか」
ホンネではこういう 「会社人」 って、現実にも掃いて捨てるほどいるんだろうな。
ざまーみろい。
何人か登場する政治家・官僚たちも現代風にえげつない。
某料亭での政治屋の会話。
「100年ぶりの貿易黒字だ。 我が国が何もしないのは非常にまずい……」
「成功すればわたしらの手柄。 失敗すればやつらの責任」
ええかげんにしないさい(怒)
そして黒幕的存在の兵藤宇宙開発省事務次官。 エリート官僚らしく権謀術数をめぐらします。
しかし最後に、「結局、わたしたちは間に合わなかったわけです。
後は彼らに望みを託すしかないでしょう」 という潔さはなかなかカッコ良く描かれています。
そして 「地球の危機を前にして、立場をうんぬんしている場合ではない。
お互い、もはや陰で動いている場合ではない」 というわけで、最前線は若い者に任せ、縁の下で動いていた脇役たちも集まり始めます。
「鮎沢も河本も、すでに会社に属する人間の私利私欲を捨てている。
やるべきことをやり、なすべきことをなす人間の目だ」
そう感じる兵藤自身は、むろんカーリー撃退によって日本の宇宙開発省がクローズアップされることを大義名分としている。
「しかし、自分 (兵藤) 自身もまた、この地球最大の危機に臨んで、事務次官という立場を越え、一人の人間として鮎沢や河本と同じ目をしていることまでは、兵藤は気付かなかった」。
脇役キャラもこうしてクローズアップされるあたり、結構好きなんですよね。
主役級は当然としても、こうした脇役たちの姿を見ると、本作
(小説版) は単なる皮肉としての 「会社員の宇宙戦争」 にとどまらず、それを超える何かを模索しているのかも知れません。
その 「何か」 を現実でも見つけられるならば、カイシャ社会が疲弊して閉塞した現代日本にも新たな道が開けるんじゃないか、そんな気もします。
これが普通のアニメだったならなぁ……。
2003.07.07