第6部あとがき
最後の章をアップしてからこれほどの間があいての後書きというのも何とも間の抜けた話ですが……どうかお許しくださいませ
m(_ _)m
「銀河英雄伝説」 という完成された作品は、それをすでに読んだ私たち読者にしてみれば、過去に体験した歴史的史実のようなものです。
もちろん作品舞台は未来ですが、私たちが作品を読んだ、すなわち疑似体験をしたのは過去のある一時点であり、私たち個々人の歴史にとっては
「過去」 の体験となるわけですね。
しかも完成された作品ということは、もはやその内容に変更はありません。
ヤンがバーミリオンで勝利することもなければ、ラインハルトが息子の戴冠を見届けることもありません。
同盟の滅亡やラインハルトの早逝は、いわば
「歴史的事実」 のようなものといえます。
タイムトラベラーにとって、過去の史実は動かすことの出来ないものです。
それは、「銀河英雄伝説」 の内容が動かすことが出来ないのと似ているような気がします。
もちろん、別のSF的解釈ではタイムトラベラーが歴史を変えることは可能かもしれません。
そういえばそれに相当するのが、様々な同人誌のようなものかも知れませんね。
そういう場合もありますが、拙作 「メムノーン伝」
はあくまでも 「銀河英雄伝説」 という歴史的史実を題材にした、一種の歴史小説を描いてきたつもりです。
だから、これを書いている私やお読み頂いている皆さんは、会戦の結果がどうなるか、作中で登場する人物がいつ戦死するのかを知っているわけですよね。
もしもタイムマシンで過去へ行って、歴史上の人物と会う機会が得られたとしたら……明日その人はどうなるのか、知っているのに明かせないことに、もどかしさや切なさを感じるでしょう。
原作にも登場するキャラを描く時は、(作者も読者も)
先を知っている故に描ける 「含み」 という楽しみもありますが、一方でこうした切なさも最近特に感じるようになってきました。
まぁそこらへんが、そもそも拙作 「メムノーン伝」
自身がオリジナルキャラ中心であることの、所以の一つなのかもしれません。
そしてもう一つ、この第6部で企図したのは、ある無名の登場人物
(艦) に名前を付けることでした。
バーミリオン会戦のクライマックスの一つ、5月2日に同盟軍が
《ブリュンヒルト》 を射程に収めた瞬間。 アニメでは一隻の戦艦が
《ブリュンヒルト》 の、ラインハルトの眼前に迫り、艦首主砲を発射しようという正にその瞬間、ミュラー艦隊の来援で艦首部分を吹き飛ばされるシーンがあります。
歴史に残る 《ブリュンヒルト》 を、あのラインハルトを倒すことに、あと一歩で成功したはずのこの艦。
もしもミュラー艦隊来援があと数秒遅れていれば、間違いなく成功したこの艦の、その乗員の気持ちはいかほどのものだったでしょうか。
歴史に残ることのなかったこの艦にも当然名前があり、何百人かが乗り組んでいたわけです。
彼らの視点からこの場面を描き、彼らの名を歴史
(といってもあくまで拙作の中だけですが)
にとどめよう、という大それた気持ちもあって、この辺りは結構思い入れの強い章になりました。
実は 《アンドラーシュ》 が 《ブリュンヒルト》
へ突入していくシーンだけはかなり最初の頃から大枠を決めていまして、このためにチャロウォンクの乗艦名を
《アンドラーシュ》 に決めたわけでして (苦笑)
さて、今回は恒例の (?) 「注釈・言い訳・重箱の隅つつき」
はお休みさせていただきまして。
次ページで、バーミリオン会戦の決着についてもう少し書いてみたいと思います。
「メムノーン伝」 次章は個人的事情で当初の予定とだいぶ変わりそうです。
その点は事情も含めて近日中にアップしますので、今少しお待ち下さいませ。