第2部の注釈、言い訳、重箱の隅つつき


1.第1章冒頭の言葉
「長い軍人生活の間、多くの同志を失った。もはや戦争ではなく、和平を求めるときだ」
 第1章冒頭のこの言葉は、1999年5月にイスラエルの新首相に選ばれたエフド・バラク労働党党首の言葉です(朝日新聞・天声人語 1999年5月31日で紹介)。銀英伝ワールドにもぴったりな気がしまして、この言葉の引用を思いついた時、第2部の構想も始まりました。


2.NCとUSE
 北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム;NC) と三大陸合衆国(ユナイテッド・ステーツ・オヴ・ユーラブリカ;USE)はいずれも原作(小説版本編第6巻「序章 地球衰亡の記録」、OVA第56話「地球へ」)で触れられている通り、2039年「13日間戦争」と呼ばれる全面核戦争を引き起こして地球全土を壊滅させた超大国の名前です。う〜ん、2039年か……。銀英伝の長大な「歴史」から比べると、もう目と鼻の先ですね。起こってほしくないなあ。
 さて、この両国は地球上のどこにあったのでしょうか? 現実世界における冷戦のただ中で書かれた銀英伝ですから、明らかにアメリカとソ連を中心とする東西両陣営、NATOとWTO(ワルシャワ条約機構)を模したのでしょうが……
 小説版第6巻14ページには、こんな記述があります。

「ことに、北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム)の崩壊後、北アメリカ大陸を割拠した群小の教団国家群は……」

 なるほど、少なくともNCはアメリカ合衆国の未来の姿と考えて間違いなさそうです。
 USEもユナイテッド・ステーツ・オヴ・ユーラブリカという名前からして、ヨーロッパアフリカを含んでいることは確かでしょう。
 OVA第56話「地球へ」ではユリアンが 《親不孝号》 船内で歴史ビデオ(?)を見ていますが、ここで一瞬だけ両陣営に色分けされた世界地図が登場します。これこれ♪ ということで、一時停止してじっくり見てみました。

USE ロシア、中部ヨーロッパからフランス、西アフリカ、南アフリカと東オーストラリアの一部、ニュージーランド、中米、ブラジル、アルゼンチン
NC 北米、イギリス、イベリア半島、スカンジナビア半島、日本、中国からインド・中近東、東アフリカ、西オーストラリア、上記以外の南米

 この地図、おおまかなところは現在の国境と同じ様ですが、変わっている所もあるので厳密には分類しきれません。
 いったい2039年までに何があったのか、オーストラリアが分割されてたり、おまけに北米大陸の中でもアラスカだけがUSEになってるんですよ。グリーンランドでさえ分割されています。
 あっ……何と、日本列島のうち本州以南はNC色なのに、北海道だけがUSE色になってるではありませんか!!
 うーん、2039年の「13日間戦争」だけが注目されていますが、これほど国境が変わってしまうというのは、それまでにもよほどの国際的事件があったに違いありません。21世紀前半、どのような「描かれなかった歴史」があったのでしょうか。怖いよ〜。
 ところでD.シンクレアがこれらの起源をNATOやCCCP(旧ソ連のロシア語での略称。英語ではUSSR)に求めている、というのは、むろん私の勝手な創作です。
 シンクレア自身は、小説版第1巻序章およびOVA第40話で登場しています。


3.「反戦市民連合」
 これ、今後も時々出てきますが、私の創作ではなくてOVAに登場する名前です。もっとも第10話に登場しただけで、後のほうでは忘れられちゃったようですが……。拙作ではもう少し活躍してもらう予定です。
 OVA第10話「ジェシカの戦い」で、テルヌーゼン補欠選挙に立候補するのは、反戦市民連合のジェイムス・ソーンダイクと、国民平和会議テルヌーゼン支部のレイモンド・トリアチ。国民平和会議って、主戦派のくせに「平和」なんて名付けてるんですなあ。余談ですが対立候補のトリアチ氏、「エンサイクロペディア」にも載っていない、文字通りの泡沫候補扱いです(笑)。


4.テルヌーゼンはどこにある
 テルヌーゼンは補欠選挙でジェシカ・エドワーズ女史が選出される、とっても重要な場所です。さて、このテルヌーゼンはどこにあるのでしょう?
 小説版では、こんな記述があります。

「ジェシカは1時間後の定期船で、ハイネセンの隣の惑星テルヌーゼンに帰るのだという」(小説版第1巻97ページ)
「ジェシカ・エドワーズを知ってるな? 彼女は先週の補欠選挙で代議員になったよ。テルヌーゼン惑星区選出のな」(第1巻166ページ)

 なるほど。テルヌーゼンとは、バーラト星系の第3か第5惑星なんですね(隣ったって、ハイネセンとテルヌーゼンが、まさかガミラスとイスカンダルみたいに双子惑星ってことはないでしょうし ^^)。
「惑星区」という呼び方は他にも出てきたように思います。どうやら同盟では惑星1個が今の時代で言う一選挙区に相当するようですね。でも、ハイネセンのような10億もの人口を擁する惑星と辺境惑星では「1票の重み」の格差がひどいだろうなぁ。テルヌーゼンの人口は不明ですが、ハイネセンのような人口の多い惑星はさらに選挙区が分割されているかもしれませんね。
 えと、脱線してしまいました。
 一方OVAでは、第10話「ジェシカの戦い」はこんなナレーションで始まります。

「イゼルローン要塞攻略戦の後、中将に昇進したヤン・ウェンリーは、士官学校の創立日記念式典に招かれ、惑星ハイネセン第2の都市、テルヌーゼンに向かった。テルヌーゼンは、ヤンが士官学校時代を過ごした思い出の土地であった」

 ありゃりゃ……OVAでは、惑星ではなくて一都市の名前になってますね。ま、これは惑星間航行に比べ、同じ惑星上ならば飛行機のワンカットで済むからだと思います。
 さて。
 これはどちらが正しい、というものでもありませんね。どちらでもいいんだけど、拙作ではどちらとも明示しないで済ますことにしました。本当は3月16日にホリタがテルヌーゼンを訪れる形も考えてみたんですが……。


5.リン・メイ
 第8章で登場するリン・メイは、お気づきかと思いますが、外伝第2巻「ユリアンのイゼルローン日記」で名前だけ登場しています。ただし、ポプラン、コーネフの台詞で登場する名前はリン・メイではなく「メイ・リン」なんですよね。
 「エンサイクロペディア」 では 「リン・メイ」 と表記されており、E式の姓名表記(姓が前にくる)となっています。拙作を書いてる最中はこれを確認した上でご登場願ったのですが、後から外伝第2巻を読み返していた時に 「げげっ、逆になってる!」 ということに気づいちゃったんですね。
 ん〜、「リン」も「メイ」もいずれも、姓とも女性のファーストネームともとれそうですが、まずは 「エンサイクロペディア」 のように 「リン」 が姓と考えましょう。リン・パオという例もあることですし (血がつながってたりして ^^)。そうすると、リンはどちらかというと東洋風ですし、リン・パオも姓名表記はE式ですから、やはり「リン・メイ」が正解という気がします。
 では、なぜポプラン、コーネフは逆に言ったんでしょうか。
 現代でも、日本人の名前を英語で表記するときは姓名を逆に書きます。ポプランは自分のW式に慣れているので、ついガールフレンドの名前もW式で言っちゃった。そしてコーネフは本人を知っているわけではないので、ポプランから聞いたとおりに言った。そういう可能性はあるでしょうか?
 でもね〜、だからと言ってポプランが「ウェンリー・ヤン」なんて言ってるのを聞いたことないしなあ。それに、現代でもE式の表記を自分からわざわざひっくり返して言うのは、日本人ぐらいだそうです。日本人ももっと正々堂々とE式で名乗るべきではないかしら。
 まてよ、「メイ・リン」というのは、実は日記に書くときにユリアンが間違えたんだったりして(笑)。
 でもなあ、そういえばどっかの球団にメイという野球選手がいませんでしたっけ? とすると「メイ」が姓の可能性もあるわけか……。まてまて、その場合は「メイ」が姓でW式表記とすれば、やっぱり「リン・メイ」か? あと、かのジョン・レノンの愛人は「メイ・パン」という名前だったそうです(パンが姓?)。
 リン・メイかメイ・リンか……降参です。本当は原作の記述にある「メイ・リン」とすべきなのでしょうが、やっぱり「リン・メイ」の方がありそうな気がするのですが……。


6.タチアナが引用した「古典」
 第10章でタチアナが引用した「何度言やぁ分かるんだ、過去は変えられねえ、あきらめな……だがな、未来ならいくらでも変えられるんだぜ」という台詞は、実際にある作品から引用したものです。ただその作品は銀英伝のイメージと傾向が異なるので、ここでは内緒です(^^)。でも、とっても良い言葉だと思うので引用させてもらいました。なお、実は本共和国のどこかに正解があります。分かるかな〜?(笑)


「メムノーン伝」第2部あとがき